「エンジニアド・システム」のコンセプトを掲げて、ハードウエアやソフトウエア、サービスを一体化した垂直統合型のシステムでIT業界を主導する米オラクル。出遅れ気味だったクラウドサービスにおいても、事業を本格的に立ち上げる。エンジニアド・システムとクラウドサービスの本質は変わらないとするマーク・ハード社長に事業戦略を聞いた。

オラクルが提唱する「エンジニアド・システム」は、どのようなコンセプトなのですか。

1979年に米ベイラー大学を卒業。1980年に営業として米NCRに入社、25年間在籍し管理、業務、営業、マーケティング関連の役職を歴任。2001年に同社の社長、2002年からはCOO(最高執行責任者)を兼務、2003年3月にCEO(最高経営責任者)兼社長に就任。05年4月に米ヒューレット・パッカー ドのCEO兼社長に就任、06年9月に会長を兼務。10年9月より米オラクルの社長。(写真:中島 正之)

 昨今、ITは非常に複雑なものになっています。顧客は様々なシステムの構成要素を購入し、それらを統合するために多くのコストをかけてきました。我々のエンジニアド・システムのコンセプトは様々な側面がありますが、その一つに顧客が必要とするものを文字通りエンジニアリングし、用意していることが挙げられます。

 エンジニアド・システムでは、我々がハードウエア、ソフトウエアの全てのインテグレーションを行います。さらに、我々がテストし検証して、標準構成として出荷します。遠隔監視やリモートパッチ、そしてシステム全体の運用監視も行います。率直に言って、これまで他社ができなかったレベルのサポートを提供することができると考えています。

 既に、データベースに最適化したExadataや、WebLogicなどのミドルウエアに最適化したExalogicといったエンジニアド・システムを提供しています。そして今回、新たにビジネスインテリジェンス・ツールをプラットフォームに統合したExalyticsを発表しました。

ビッグデータが取り組みの中心

ビッグデータに関しては、どんなビジョンを持っていますか。

(写真:中島 正之)

 我々の全ての取り組みが、ビッグデータを中心に展開していると言っても過言ではありません。システムが扱うデータ量は2005年、2006年に比べて8倍から9倍に膨らみました。そして今、経験したこともないようなデータ爆発に直面しようとしています。これからの5年間で、膨れ上がるデータに対処するために、システムがどれほどの能力を備えるべきか、確かなことは言えないほどです。

 そのことが、より高い性能とスケーラビリティーに対するニーズを生み出しています。ですから、エンジニアド・システムのそうした能力が、極めて重要になってくるわけです。Exalyticsならビジネスインテリジェンスのジョブを従来に比べ100倍も速く実行できますし、顧客の素早い意思決定を支援することができます。

富士通との提携では、次世代SPARC64プロセッサを搭載したエンジニアド・システムを今秋に発表するという噂がありますが。

 パートナーシップの中身については、お話しするわけにはいきません。その質問に対しては、富士通と我々の間に強力なパートナーシップが存在することを強調するにとどめておきます。

IBMのPureSystemsはエンジニアド・システムと同じコンセプトだと思いますが、どのように評価していますか。

 あえて指摘するなら、IBMは1年半前に(データ・ウエアハウス・アプライアンスを手がける)ネティーザを買収しましたね。社内でそうしたエンジニアド・システムを製品化できなかったから、IBMは買収に踏み切ったのではないかと、私は推測しています。

ユーザー企業には、垂直統合によるベンダーロックインを懸念する声もあります。

 垂直統合には極めて大きな利点があります。統合されたシステムをマルチベンダーの個々の製品群に置き換えようとすれば、システムの複雑性が高まります。ですから、ロックインを懸念する皆さんには、どんなアーキテクチャーが自分たちにとってより最適なソリューションになるのかを自問していただきたいと思います。

 垂直統合によりシステムの複雑性は回避され、エンジニアド・システムはちょうどiPadのように運用できます。iPadもハードウエアとソフトウエアが統合されたシステムとして、顧客のもとに届けられます。つまり、我々のエンジニアド・システムは、本質的にiPadと違いはないのですよ。ぜひiPadに関しても、同じような質問をしてみてください。

 ロックインについて、もう少し言及すれば、顧客は様々なベンダーから多様な垂直統合型のシステムを購入することができます。つまり、顧客には選択肢があり、我々には競争があるのです。

 それに、クラウドサービスについても、同じことが言えますよ。クラウドでは、提供されているサービスを利用するか、しないか、それだけです。クラウドサービスでサーバーやストレージ、ネットワーク、そしてデータベースに何が使われているか、顧客には分かりません。まさにロックインされているのと同じですが、誰も気にしません。

 私がいろいろとお話しするのは、ロックインを心配する人は本質を理解していると思えないからです。それは「どうすればITをシンプルにできるか」です。クラウドも垂直統合型のシステムも、同じようにシンプルなのです。