8年前“開びゃく以来の大改革”としてSEと営業の組織を一体化した富士通。その富士通が4月、再び製販分離に踏み切った。守りに徹するだけで売り上げが伸びない現状を打破し、再び成長路線に回帰するためだ。それは、ソリューション型からクラウド型のビジネスに転換し、真のグローバル企業に脱皮する布石でもある。山本正已社長にその戦略を聞いた。

社長就任時に、2011年度に売上高5兆円、営業利益2500億円を目指すとしましたが、結果はその目標を大きく下回りました。

1976年3月、九州大学工学部卒業、同年4月に富士通に入社。2005年6月に経営執行役(兼)パーソナルビジネス本部長に就任。07年6月に経営執行役常務(兼)ユビキタスプロダクトビジネスグループ長。09年6月に執行役員常務、システムプロダクトビジネスグループ長とプラットフォームソリューションビジネスグループ副グループ長を兼務。10年1月に執行役員副社長、同年4月に執行役員社長に就任し、同年6月より現職。1954年1月生まれの58歳。(写真:栗原 克己)

 富士通のビジネスは市況に影響されることを、改めて実感せざるを得ないということだと思います。ICT投資の動向によって業績が左右されます。それが我々の弱点であるわけです。

 ICT業界を取り巻く環境が変わりつつあることの影響も大きい。クラウドサービスへの移行期間に入ったのです。その中で、どうやってビジネスモデルを強固にするのかを模索しています。参考にすべき成功例はやはりアップル。ものづくりかどうかは別にしてハードを自ら持ち、ソフトやサービスを統合し新たなジャンルを切り開いた。富士通にとっても将来のモデルとして有効だと思います。


これまでは、IBMのビジネスモデルを参考にしていました。

 もちろん競合がIBMなどのベンダーであることは変わりません。ただ、ビジネスモデルを検討する際には、広く事例を見ていかなければなりません。

クラウド投資、ようやく回収へ

(写真:栗原 克己)

クラウドサービスへの移行は、どれくらい進んでいますか。

 この2~3年、クラウド関連で多くの投資を行ってきました。これまでは投資期間でリターンがなく、今ようやく回収が始まったと言える状況です。2011年度のクラウドサービスの売り上げは1000億円ですが、3年間で3000億円までに引き上げる予定です。

3000億円を達成しても、全売り上げの10%にも届きません。

 数字には、オンプレミスで構築するクラウドに関連する売り上げを入れていません。ざっくり言うと、オンプレミスの案件も半分はクラウドのテクノロジーを取り入れるようになると思います。

クラウドが主流になると、従来システム開発を担っていたSEは余剰になる可能性があります。どのような手を打つのですか。

 幸いにして富士通の場合、SEの稼働率は、まだ十分に高いのです。今、富士通での内製と外注の比率は半分ずつです。若干外注の分量が減っていますが、内部のリソースを整理するといった話にはなっていません。ですから、SEは人数を維持しながら、クラウドサービスの担い手に移行してもらいます。それと共に重要なことは、SEの力を生かしてICTビジネスの裾野を広げることです。

ビジネスの裾野を広げるとは、スマートシティなどの新たな取り組みのことですか。

 はい。早く立ち上げなければいけないのですが、簡単ではありません。医療や農業など様々なジャンルで、新たな試みを仕掛けており、スマートシティもその一環です。ただ、それらの売り上げはまだ微々たるものです。もっと幅が広がっていかないとICTビジネスとしては厳しいですね。

 当然、コンサルティングも含めて全体のコーディネートができるSE軍団をつくっていかなければなりません。多くの顧客がスマートフォンなどを活用した新しいビジネスを模索しています。我々は、そうした顧客の手助けができなければなりません。

 ただ、こうしたビジネスは一つひとつの規模が小さい。富士通としては、いかに多くの案件を集めてくるかが重要になります。顧客の要求も全て違うでしょうから、個々の要求に対して包括的に対応する仕組みが必要なのです。クラウドがよいのは共通の仕組みを提供し、個々の要求に少しのカスタマイズで対応できることです。クラウドサービスをいろいろなジャンルに広げていきます。