ネットでの個人向け天気予報サービスやテレビの気象情報番組で知られるウェザーニューズだが、海運会社向けの航海気象がビジネスの原点だ。そこから航空会社や鉄道会社向けなどに事業を広げ、今やアジアでの本格展開を視野に入れる。人工衛星の打ち上げを計画するなど“無常識”のサービス企画が持ち味だ。草開千仁社長にその発想の源とIT活用を聞いた。

気象会社のビジネスモデルは、どのようなものなのですか。

草開 千仁 氏
1987年3月に青山学院大学理工学部物理学科卒業、同年4月にウェザーニューズ入社(第1期)。96年8月に取締役防災・航空事業本部長、99年8月に代表取締役副社長に就任。2006年9月より現職。1965年3月生まれの47歳。(写真:陶山 勉)

 売り上げの25%が航海気象で、世界の海運会社向けに、船舶の航路を最適化する航路選定サービスを提供しています。このサービスが創業の原点です。そして、航空気象や道路気象、鉄道気象といった企業向けサービスや、個人向けサービス、放送局向けサービスもそれぞれ売り上げの25%を占めています。

 当社は単なる気象会社ではありません。創業者の石橋博良(故人)が船舶事故に遭遇して、つらい思いをしたことから、船乗りの命を守ることを使命に誕生した会社です。ですから極論すると、風や波の予測だけを提供しても何の価値もない。このルートを行けば一番安全で、燃料費がかからない、といった情報を提供することに価値があるのです。

 航空気象や道路気象、鉄道気象でも同じです。ただ航海気象と異なり、事業を立ち上げるのに多くの時と労力を必要としましたが。

アジアで“陸”向けサービス

それはなぜですか。

 例えば航空機の場合、各国の気象庁の予報を基に、資格を持った航空会社の担当者がフライトプランを作ることが法律で義務付けられています。我々の出番は無いですよね。天気予報も最適ルート作成も、我々が代替することを認められないわけですから。

 ところが、ニーズが隠れていたのです。航空機が着陸できるかどうかは、風の強さなど気象条件次第です。ただ、降りられるのかどうかの閾値は機体ごとに違うし、パイロットの経験によっても違います。航空会社は運航率を上げ最適な燃料で飛ばしたいので、「この便は10分遅らせれば着陸できる」といった個別の情報が欲しい。そのことを教えてくれたのは、実は顧客でした。

 その顧客は大韓航空です。ある年台風などで、ドル箱路線で1カ月に80便もの欠航を出し、何とかしなければと相談に来てくれたのです。その結果、個々の閾値を加味して飛べるのか遅らせるべきかなどの情報を提供するサービスを始めました。さらに、これをベースに中国の航空3社などにも展開していきました。

 大韓航空のような顧客を「シンボリックカスタマー」と呼んでいます。我々のサービスはどれも、こうした顧客がいなければ作れなかったものばかりです。

(写真:陶山 勉)

気象を完璧に予測するのは不可能ですよね。そこまで踏み込んだサービスを提供すると、外れたときに問題になりませんか。

 実際、きついですよ。ただ外れる場合も当然あるわけで、次のように対処をします。顧客と定期的にミーティングを持っており、その場で、気象庁の予報だけを利用した場合と比較して、どれだけ効果があったかを資料として示します。サービスの効果を相互確認する機会を必ず持つわけです。

 もう一つ重要なことは、我々が精度を高めるためにどのようなアクションを取るかです。例えば、中国のウルムチは気象条件が厳しく、予報が難しいため、外れるケースが非常に多い。そこで我々は、気象カメラ設置の許可を当局に働きかけています。顧客にも、そうした具体的なアクションを報告しています。

 こうした費用対効果の相互確認と改善に向けたアクションは、今後のグローバル展開を成功させる上でもカギとなると考えます。

既に航海気象などで外国企業向けにサービスを提供していますが、今後海外で道路気象や鉄道気象サービスも手がけるのですか。

 次の成長に向けたテーマの一つです。今後5年はアジアで航空気象と道路気象、鉄道気象に徹底的に取り組みます。道路や鉄道といった“陸”はかなりチャレンジだと思っています。アジア各国における陸上の観測ネットワークをいかに充実させられるかが、勝負でしょう。それと、現地語でのコミュニケーション。中国でのサービスはやはり英語ではなく、中国語でなければなりません。

アジア各国に現地法人をつくって、ローカルなサービスを提供するわけですか。

 現地法人は既に上海やソウルなどにあります。ただし営業組織です。予報やサービスは、本社で行います。実際、中国向けの航空気象では、本社の中国人スタッフがサービスを提供しています。道路気象についても、中国の遼寧省で試験的にサービスを開始しましたが、やはりチームチャイナがオペレーションをしています。