スマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスが企業情報システムのクライアントの主役のひとつになってきている。スマートデバイスと、それによって勢いづいてきたBYOD(Bring Your Own Device、私物デバイス活用)は企業情報システムとIT部門をどう変えようとしているのか。米Gartner リサーチバイスプレジデント兼最上級アナリスト Nick Jones氏に聞いた。

(聞き手は高橋 信頼=ITpro


スマートデバイスは企業経営にどのようなメリットをもたらしているか。

Nick Jones氏
Nick Jones氏

 まずスマートデバイスを使い出したのは、ナレッジワーカーと呼ばれる人々だ。特定のタスクを遂行するのではなく、知識や人脈を活用し、新しい価値を生み出す労働者だ。そういった人々はスマートデバイスでより効率的に、様々な場所や時間で知識を共有し、SNSなどで人脈を広げている。

 また、セールスパーソンやフィールドエンジニアなどがスマートデバイスを使って、営業活動やサポートを効率化している例も数多く出てきた。営業やサポートの現場で、即座に、顧客に画面を見せながら業務を遂行できる。オフィスに戻らなくとも情報を閲覧したり、注文や報告を入力することができる。

一方で、IT部門にとっては課題も生まれている。

 大きな課題はデバイスの多様性だ。以前は「このモデルだけサポートしていればよい」という状況だったが、現在はiPhone、Android、タブレットにスマートフォンと、きわめて多様な機種が情報システムにアクセスするようになった。従業員が私物デバイスを利用するBYODも広がっている。

 このような様々なデバイスを管理し、企業のデータを安全に守らなければならない。また、アプリケーションをこれら多様なデバイスで利用できるようにすることも求められる。

“受け身”を脱し、変化を先取りして、より経営に貢献できる部門に

 これらは課題であるだけではなく、チャンスでもある。新しい取り組みに挑み、より経営に貢献できる部門に変化する機会だ。よりビジネス側の人々と密接に協力し、新しいスキルやツールを身につけるチャンスだ。例えばモバイルの世界ではアプリケーションをリリースして終わりではなく、頻繁に改良していくことが求められる。より柔軟な開発が必要とされており、アジャイル開発に取り組む契機になる。

 また、情報システムのアーキテクチャを見直す機会でもある。将来、どのようなデバイスが出てくるかわからない。どのようなデバイスが入ってきても、それに耐えうる、セキュリティを守れるアーキテクチャの構築に取り組むべきだ。

 日本の状況は把握していないが、海外では、モバイル分野でIT部門の取り組みが遅すぎた例が多々見受けられる。ユーザー部門がベンダーから直接ソリューションを導入し、IT部門があとからその追認を迫られるというケースだ。IT部門が“受け身”になってしまっている。変化を先取りし、よりビジネス部門に提案できる部門へと変わらなければならない。

BYODに取り組む企業は増えているのか。

 北米がBYODの動きを主導していて、欧州がその後を追っている。日本はさらに遅れていて、コントロール指向が強いようだ。

 ただし、北米でもすべての従業員がBYODを許可されているわけではない。我々が2011年にCIOを対象に実施した調査では、従業員のうち平均で30%は、機密データを扱っているためBYODの対象にならないという結果が出た。逆に言えば、将来的には70%の従業員はBYODの対象になる可能性もあるとも言える。