格安海外航空券の販売から出発したエイチ・アイ・エス。この元祖ベンチャー企業も今や、自社企画の海外パッケージツアー商品の販売や、企業向けの出張管理サービスなどを手がける大手旅行会社に成長した。次に目指すはアジア。ナンバーワンの旅行会社になるべく、航空機などの保有も視野に入れる同社の平林朗社長に、その戦略とIT活用の勘所を聞いた。

震災や原発事故は旅行業に大きなマイナスだったはずですが、2011年10月期決算で過去最高益となるなど、業績が好調です。

 実は、我々にとって良い材料が結構ありました。一つはシンプルで、円高です。外国人が日本に来なくなったことも良い材料です。外国人が来なければ、航空機の空き座席は潤沢になりますから。我々から見て買い手市場になったわけです。もちろんマイナス要因もいろいろとありましたが、相殺するとプラス要因のほうが勝ったということでしょう。

米国のネット旅行会社を意識

システムのリニューアルも効果を上げたようですね。旅行商品販売サイト「H.I.S.VACATION」の業務を海外に移管したことで、利用を伸ばしたと聞いています。

平林 朗 氏
高等学校を卒業後、旅行ガイドのアルバイトをしながら米国を旅する。1993年にエイチ・アイ・エス入社。1994年にインドネシア・バリ島支店を立ち上げる。2004年に関東営業本部長、2005年に関西営業本部長、2007年に取締役関西営業本部長。2008年4月より現職。1967年生まれの44歳。(写真:陶山 勉)

 この件は、流通構造の改革の話です。それをシステムの話として言っているわけです。例えばハワイに行ったら、オプショナルツアーを買いますよね。簡単に言えば、日本国内の販売チャネルを全部飛ばして、そうした商品を現地拠点がネットで直接販売することにしたのです。これまで国内での販売で10%から15%ぐらいの手数料を取っていましたが、直販により、こうしたコストを圧縮しました。当然、商品の価格競争力が高まったわけです。

 ただ、社内的には大きな構造改革ですので、調整がそれなりに大変でした。日本国内には店舗があり、担当していたスタッフも大勢いますからね。もっと早くやるべきでしたが、3年ぐらいかかりました。

昨年、航空券の検索システムを全面刷新したそうですが、その狙いは何ですか。

 航空券の販売で、海外発着の航空運賃や空席の検索を可能にしました。今まで日本発の航空券の検索しかできませんでしたので、全く違うシステムになりました。

 顧客の利便性から言うと、海外発着の航空券のリアルタイム検索は必要不可欠なものです。ただ、他社とそれほど差が付くわけではないのです。EC(電子商取引)サイトの競合として米国のエクスペディアとかプライスラインなどを意識していますが、「このシステムが我々の売りだ」と勝負するようなものではありません。

 ただ、開発は大変でした。開発できるITベンダーを国内で探せなかったので、コストパフォーマンスも考慮し、インドのベンダーに任せました。実は、今も我々のオフィスの開発フロアには、インドの技術者が大勢来ていますよ。

富裕層や高齢者、法人向けのビジネスにも最近、力を入れていますね。成果はいかがですか。

 順調ですよ。ただ、国内にはそうしたところにしか成長領域がないのです。市場全体は伸びていない。海外旅行に行く人の総数は10年ぐらい横ばいです。今後、人口が減っていくことを考えると、非常に厳しいわけです。

 我々は若年層に強いというイメージがあります。富裕層や高齢者、法人・団体旅行のセグメントは、安定的に需要があるところですが、我々のシェアはそれほど高くはありません。国内で成長戦略を採るためには、そういう市場を開拓する必要があるわけです。

アジアはスピード感が違う

平林 朗 氏
(写真:陶山 勉)

他の旅行会社が店舗を減らすなかで、エイチ・アイ・エスは最近まで店舗を増やしてきました。

 顧客目線で考えると、すごく分かりやすい話だと思います。毎月上海に行く人は、航空券やホテルをネットで予約するでしょう。でも同じ人が、念願だったエジプトに初めて行くとしたら、やはり店舗に相談に来ます。ですから、顧客との接点を限定していては、顧客のニーズに合いません。

 ただ現在は、店舗の増減はフラットです。閉めた店舗もあれば、新規出店もあるという状況です。