「将来的に『Amazon Web Services(AWS)』は、アマゾンにとって最も規模の大きい事業になると信じている」---。米アマゾン・ドット・コムのシニア・バイス・プレジデントであるアンディー・ジャシー氏は、記者にそう語った。大手ITベンダーがAWS追従に動く中、AWSのトップは自社の成長に対する自信をますます深めているようだ。

 記者は2012年5月に、ジャシー氏に対して1時間インタビューする機会を得た。その一部は、「日経コンピュータ」6月7日号の特集記事、「SIと運用が消える」で紹介した。今回は、ジャシー氏へのインタビューのフルバージョンをお届けする。

(聞き手は中田 敦=日経コンピュータ


まずはジャシーさんの自己紹介をお願いします。

米アマゾン・ドット・コム シニア・バイス・プレジデント アンディー・ジャシー(Andy Jassy)氏
米アマゾン・ドット・コム シニア・バイス・プレジデント アンディー・ジャシー(Andy Jassy)氏
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 私はアマゾンのシニア・バイス・プレジデントとして、クラウドコンピューティング事業部門であるAWSと、アマゾン全社のテクノロジー・インフラストラクチャ・チームを統括しています。アマゾンにはかれこれ、15年間勤務していて、ちょうど今日(インタビュー日の5月9日)が、勤続15年目の記念日です。

おめでとうございます。

 ありがとうございます。私はこれまで、アマゾン社内のほとんどの事業部門に関わってきました。AWS事業に関しては、開始時から担当しています。

2003年から、AWSを担当しているのですか。

 そうです。AWSを開始する前、私はジェフ・ベゾスCEO(最高経営責任者)の首席補佐(Chief of Staff)で、彼と一緒にAWSのアイデアを考えました。そして、私自身がAWSの事業計画書を書き、2003年秋にAWSを開始したのです。

ベゾスCEOはよく、「アマゾンはテクノロジー企業だ」と言います。ベゾスCEOはいつから、そう考えるようになったのでしょうか。

 1995年の会社設立当初からです。ジェフ(ベゾスCEO)のバックグラウンドは、コンピュータ科学者であり、テクノロジーが企業競争力の源泉となると信じていました。アマゾンは常に、テクノロジーによって小売業を革新してきました。小売業の会社がITビジネスに参入するなどという“馬鹿げた”決断ができたのも、アマゾンが自社のことをテクノロジー企業と見なしていたからです。

 当社は10年間にわたって「Amazon.com」を拡張することを通じて、コンピュータやストレージ、データベース、メッセージングに関する非常に深い知見と技術を習得しました。また当社は、信頼性が高く拡張性に富んだデータセンターを、低コストで実現する必要がありました。なぜなら小売業の利益率は非常に低いからです。Amazon.comで培った技術的な自信が、AWSを始めた背景にありました。

AWSにおける“テクノロジー企業らしさ”を教えて下さい。

 例えば、2006年3月に開始したストレージサービスの「Amazon S3」は、当時としては革命的で、驚くべきサービスでした。今日、S3には9000億個のオブジェクトが格納されていて、毎秒65万件のリクエストを処理しています。S3をはじめとするAWSの全サービスは、当社が開発したソフトウエアによって実現されていて、そのソフトウエアは当社のハードウエア、当社のデータセンター上で稼働しています。

 最近追加した「Amazon DynamoDB」も、当社の独自技術です。無限ともいえる規模のノン・リレーショナル・データベースであり、データの読み書きを、ミリ秒の遅延の範囲で実行できます。