2012年4月19日、東京・お台場で「機動戦士ガンダム」の世界を体感できる「ガンダムフロント東京」がオープンした。実物大ガンダムが再登場するなど注目度は高い。そのプロジェクトの中心にいるのが、「チーフ・ガンダム・オフィサー(CGO)」の肩書きを持つバンダイの上野和典 代表取締役社長だ。その上野社長にCGOの役割やガンダムの事業展開を聞いた。

(聞き手は山端宏実=日経情報ストラテジー

CGOとは。

チーフ・ガンダム・オフィサー(CGO)の肩書きを持つバンダイの上野和典代表取締役社長
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 そもそもCGOは元々あった役職ではありません。2004年に私が初めてCGOになりました。CGOになるまでガンダムに主体的に関わったことはなく、横で見てましたね。

 だから最初は迷いましたよ。社員のなかには「俺がCGOだ」みたいな人がたくさんいます。極端に言えば、社員の半分くらいがそんな感じです(笑)。偉そうな肩書きですから、最初は何となく私が全て決めるような雰囲気でしたが、「それは無理だな」と思ってすぐに止めました。

 まずやったのが、各事業部がどんなことを手掛けているのかを見せ合うことです。それまではそれぞれの事業部がバラバラにやっていましたので、まずは事業部ごとに「どれが一押しなのか」や「いつ頃売り出すのか」などを共有しようとしました。

 そうすると「じゃあ一緒にやろう」という案件が出てきます。それが狙いでした。みんなバラバラにやっていたものを、あるピークを決めて、年に3回くらいお祭りのように一斉に見せ合います。相乗効果もあるだろうし、各事業部で多少食い合っていたものを整理整頓できます。これは見事に当たりましたね。

 最初は2カ月に1回くらいのペースでやっていましたが、そのうち分科会のようなものを勝手に開くようになったので3カ月に1回ほどに減らしました。CGOになって予算を取りやすくなったので、今までそれぞれの事業部が自発的にやっていたイベントを少し大掛かりにして、そこに向けて商品の発売を合わせるようにしました。その時期は爆発的に売れて、話題になります。その一番の成功例が、お台場の実物大ガンダムの立像です。

それだけの権限を持てば、逆にプレッシャーも大きかったのでは。

 規模のプレッシャーよりも、「俺がCGO」みたいな社員をきちんとまとめられるのかという不安の方が大きかった。バンダイって、いい意味で、あまり上の言うことを聞かない社員が多いのです。当然、品質のチェックなど基本的なことは聞きますけど、割と自分で勝手に作って、自分で売ってみたいなところがあります。だから社員は上からの指示を「はいはい」と聞きながら、やってなかったりします。

そんな個性派の社員をどうまとめているのですか。

 結構褒めますね。表彰好きです。なんとかチャレンジ賞とかね。年に1度、団体と個人それぞれを「ゴールド」「シルバー」「ブロンズ」の3段階で表彰します。管理系の社員も含めて、外部の人の評価を重視して選考します。直近では2012年3月に東京都台東区にある本社で開きました。表彰式の模様は中継して、参加できない全社員も見られるようにしています。

 そもそも私は褒められて育つタイプです。創業社長(故・山科直治氏)にはよく怒られましたが。私はカリスマ社長ではないし、創業者でもないので、怒るというよりも「こういうことなのに何でこうしなかったのか」みたいに理詰めで質問しますね。それが怒るということになるんですけど。「バカヤロー」とか声を荒げることはありません。

 あまり押えつけて「こうじゃない」「ああじゃない」と思いつきでは言いません。ちょっと危なっかしいと思っても、どんどんやらせます。チャレンジして失敗しても怒りません。ただ、同じ間違えを繰り返したり、分かっているのにやらなかったりすると追及します。