米EMCは、プライベートクラウド(仮想化環境)の運用を省力化/自動化する製品群をラインアップするベンダーである。米EMC自身が、こうした製品を実際に使うユーザーでもある。米EMCの情報システム部門のトップであるCIOに、米EMC社内の情報システム構築の経緯を聞いた。

(聞き手は日川 佳三=ITpro


社内システム構築の経緯は。

米EMCでCIOを務めるサンジェイ・マーチャンダニ(Sanjay Mirchandani)氏
米EMCでCIOを務めるサンジェイ・マーチャンダニ(Sanjay Mirchandani)氏

 2004年に「クラウド(仮想化)への旅」を始めた。現在に至るまでのフェーズは、大きく三つに分かれる。2004-2008年は、情報システム部門のインフラを仮想化した。2009-2010年は、ユーザー部門のインフラを仮想化した。2011年には、クラウドの運用を自動化する「プライベートクラウドへの旅」を始めた。現在はこの旅の途中にある。

 仮想化に取り組んで間もない2005年当時と2012年の現在を比べると、インフラは大きく成長している。データセンターの数は5カ所で変わらないが、サーバー資源は2005年当時に2000台あった物理サーバーが、2012年現在は6000台のサーバー(このうち86%が仮想化済み)へと増えている。データ量は2005年当時の960Tバイトから、2012年では10ペタバイトにまで増加した。

仮想化に移行した詳しい経緯と、その効果は。

 仮想化に取り組んだ2004年時点では、社内インフラは多くの課題を抱えていた。例えば、サーバー資源の使用効率が低かった。アプリケーションごとに専用のサーバー機を割り当てている状態だったのだ。こうした状況を打破したいと考えた。こうして、VMwareのサーバー仮想化ソフトを取り入れることにした。

 2004-2008年の5年間で、まずは情報システム部門のアプリケーションを仮想化環境へと移行した。結果として、社内にある全サーバーの35%を仮想化環境へと移行できた。これにより、データセンター設備を7400万ドル分削減し、電源効率を34%向上させることができた。

 2009-2010年の2年間は、ユーザー部門のアプリケーションを仮想化環境に移行した。結果として、社内にある全サーバーの70~75%を仮想化環境へと移行できた。ミッションクリティカルなアプリケーションの60%が仮想化され、運用管理コストは1100万ドル減った。

 ユーザー部門のアプリケーションを仮想環境に移行する際には、「仮想環境に移行すれば、今の環境と比べて、より良いサーバー環境を提供します」とサービスレベルを約束した。これにより、仮想化への移行を進めることができた。

2011年以降、クラウドの運用はどう変わったのか。

 物理サーバーを仮想サーバーに移行させるプロセスが落ち着いた2011年からは、クラウドの運用を一歩進めるプライベートクラウドへの旅をスタートさせた。コンセプトは「IT as a Service」だ。ここでは、二つの大きな動きが起こった。一つはITの変革(IT Transformation)、もう一つは自動化(Automation)だ。

 2004-2008年と2009-2010年の二つのフェーズは、言ってみれば「工場での製造を最適化した段階」に過ぎなかった。ところが、2011年から始まった第三のフェーズは「ユーザー部門にITを消費してもらう段階」と言える。

具体的に、どのような変化が起こったのか。

 最も大きな変化は、「開発プロジェクトをユーザー部門から受注してカスタム開発する」という旧来型のスタイルから、「パッケージを市場に提供する」というスタイルへの転換だ。情報システム部門はサービスカタログを用意する。ユーザー部門は、ポータルから使いたいサービスを選ぶ。利用した分だけ課金する。こういうスタイルだ。情報システム部門は、もはやコストセンターではない。

 プライベートクラウドの運用管理ソフトによって、サービスの提供方法も変わった。需要に応じてオンデマンドでIT資源を調達してサーバーを立てることができるようになった。サービスのポートフォリオ(ラインアップ構成)管理も進めた。ユーザーは、大きな単位でやりたいことを選べば、中身がブラックボックスのままでも利用できるようになった。

 現在では、サーバー資源やストレージ資源、VDI(デスクトップ仮想化環境)などの仮想化インフラの調達/配備に加えて、ビッグデータ分析サービスなど、各種のアプリケーションを、プライベートクラウド上で提供している。社内のエンジニア向けのラボも、クラウド上で提供している。