他社からは、料金を従量制にという話も出てきているが。

田中 孝司(たなか・たかし)氏
写真:新関 雅士

 我々としては定額制を守りたいと考えている。定額制が始まる以前の状態には戻りたくない。そうでなければ、この10年間やってきたことの意味が分からなくなる。

 大幅な値上げや、従量制への転換は、ユーザーにネットワークを使わせないようにする、いわば「北風」戦略だ。冷たい北風が吹けば人は外に出なくなる。それでは何もいいことはない。

 それよりは、積極的にオフロードして、もっといろいろなコンテンツをストレスなく使えるようにしていくほうがいい。通信事業者にできることは、たとえスマートフォン利用者ばかりになっても定額制のままで使ってもらえるネットワークを作ることだ。

 オフロードについては、ヘッダー圧縮をはじめ、細かな技術や手法はいろいろある。セルが集中しているエリアで、電波が弱い隣のセルでも空いていればそちらを優先して使うよう基地局側から制御する仕組みもその一つだ。無線ネットワークをうまくチューニングすれば、もっともっとネットワークは強化できる。そういうところが、ユーザーにとってのつながりやすさ、YouTubeの起動の速さといったところにも効いてくる。

法人市場について聞きたい。法人市場には、まだ十分にアピールできていないように見える。

田中 孝司(たなか・たかし)氏
写真:新関 雅士

 法人向けのネットワークサービスでは、「KDDI Wide Area Virtual Switch」は、広く受け入れられてきたと思っている。思った以上に早く、データセンター中心のネットワークへの移行が進んでいる。音声についても、携帯電話を使った内線電話ソリューションの「ビジネスコールダイレクト」があるし、ネットワークレイヤーでは優位性は打ち出せている。

 問題はクラウドサービス。MULTI CLOUDという名前は出したが、まだ具体的なものはほとんど出せていない。この点については、今後、パートナー企業と一緒にクラウドを展開していく。良いクラウドサービスを、KDDIのネットワークと一緒に提供する。

 セールスフォース・ドットコムとの提携がその一つだし、各種のアプリケーションを提供しているブランドダイヤログのようなクラウドサービス事業者にも出資した。こうしたものを組み合わせて、シンプルにクラウドを利用できる環境を提供していく。それが法人版の3M戦略だ。

法人向けのスマートフォン展開も考えていると思うが。

 スマートフォンも法人向けはまだ進展していない。セキュリティなどの課題もあるが、法人市場はコンシューマー市場に比べると立ち上がりはゆっくりになる。これからが勝負だ。

 法人市場ではタブレット端末も受けがいい。経営層が興味を持つというフェーズは終え、業務に本格的に使おうという動きが見え始めている。

KDDI 代表取締役社長
田中 孝司(たなか・たかし)氏
1957年生まれ。大阪府出身。京都大学大学院工学研究科電気工学第2専攻修了。米スタンフォード大学大学院電子工学専攻修了。1981年に国際電信電話入社。2002年6月にKDDIのソリューション技術本部プラットフォーム技術1部長。2003年4月に執行役員ソリューション事業本部ソリューション商品開発本部長。2007年6月に取締役執行役員常務ソリューション事業統轄本部長に就任。2010年12月、KDDI代表取締役社長(現職)。UQコミュニケーションズの取締役会長を兼務。趣味はゴルフ。好きな言葉は「とことんやる」。

(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2011年12月16日)