iPhone 4Sを含め、スマートフォン/タブレット端末の積極的な展開に注力するKDDI。2012年は、これまで展開してきた端末やコンテンツ、そして同社のマルチネットワークの強みを生かした戦略を打ち出す。今後についての考えを田中社長に聞いた。
就任から1年、「戦うKDDI」への挑戦をはじめ、振り返ってみてどうか。
年度末までもう少し間があるが、自分では全体を見ると80点くらい付けられると思っている。
最も力を入れてきたのはauのモーメンタム(勢い)回復。auのモーメンタムについては、解約率、番号ポータビリティー(MNP)、純増数、データARPU(ユーザー当たりの月間売上高)の4種類の数字を指標としている。このうち解約率は二重丸をつけてもいいだろう。MNPも、流出超過から流入超過への改善を半年ほど前倒して実現できたから二重丸を付けてもいいだろう。データARPUも堅調だ。
ただ、純増数については、NTTドコモは携帯型ゲームを含めて数えるなど、各社のカウントの仕方が変わってきた。これにどう対応していくかは先送りになっている。
もう一つ注力してきたのが内部的な部分、つまり戦うKDDIへの挑戦だが、これも道半ばだと考えている。上層部にはそれなりに浸透しきたものの、中間層の意識改革は十分進んだとは言えない。隅々にまで伝わるよう、引き続き努力する。
“スマートパイプ”というキーワードも挙げていたが。
スマートパイプについては、これから展開する「3M戦略」(注)で実現していく。この1年で着々と準備は進めてきた。その一つが端末。ラインアップを増やし、選べるようにしてきた。iPhoneについても、年度末までにはメニューなどの面でもソフトバンクモバイルのサービスをキャッチアップするつもりでいる。
ネットワークでは、無線LAN(Wi-Fi)ホットスポットの整備が相当進んだ。あとは家の中のWi-Fiを強化しつつ、公衆網としてのWi-Fiと家の中のWi-Fiをシームレス化していく。販路も、CATV事業者とのクロスセルを一部で始めた。
パーツがそろってきたとすれば、2012年はどんな点に注力するのか。
パーツをつなぎ合わせて、ソリューションとして練り上げていくところだ。今まではビジネスモデル化までは踏み込んでいなかった。これからは、スマートパイプの形を具体的に示す必要があると思っている。だから、ユーザーへの新しい“価値”の見せ方を変えていく。
例えばWiMAXと3Gを搭載した「HTC EVO 3D」などでは、ユーザーが自らネットワーク設定しなくてもいいし、ボタンを押せばすぐにネットワークを切り替えられる仕組みにした。ただ、それで終わりでは面白くない。固定回線を含めて、もっと端末、ネットワーク、コンテンツやアプリケーションを融合させ、ユーザーに分かりやすいソリューションとして見せていく。それが3M戦略だ。
サービス戦略とは別に、モバイルトラフィックの増大が大きな課題になっている。増え続けるトラフィックにはどう対応していくのか。
モバイルトラフィックのオフロードは、どうしてもやらなければいけない。高機能の端末をユーザーが使い込むほどトラフィックは増える。だからといってネットワークをオーバーフローさせるのはまずい。
当然、モバイルネットワークは強化する。ただ、基地局を増やしていくという従来のやり方だけでは対応は厳しい。周波数利用効率が高いLTE(Long Term Evolution)を採用する、トラフィック制限するといった策もあるが、トラフィックが増え続けていくとすれば、結局は問題を先送りしているにすぎない。例えばみんながスマートフォンを使うようになれば、全体にトラフィックが増え、効果が薄れてしまう。だから抜本的に変えなければならない。
新しい周波数も求めているが、これもすぐに効果を得られる策ではない。となると、あとはオフロードしか手がない。人が多くいる地域では、夜中にトラフィックのピークが来る。昼間はだいたいその半分くらいだ。逆に駅などは朝や昼時、夕方にピークが来る。ここを何割かオフロードできれば、問題は起こらなくなるはずだ。
田中 孝司(たなか・たかし)氏
(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2011年12月16日)
記事公開当初、冒頭のリード文が別のインタビュー記事のものに差し替わっていました。お詫びして訂正します。現在のリード文は修正済みのものです。 [2012/03/14 12:00]