ニワンゴは2012年2月、ユーザーが簡単にニコニコ生放送で番組を配信するためのツールである「Niconico Live Encoder」の提供を開始した。このツールの開発の発端は、既存のサードパーティー製ツールがユーザーの間で流行したこと。ツールを開発した香港の会社側からニワンゴの親会社であるドワンゴにコンタクトがあり、交渉の結果ソフトウエア開発キット(SDK)の提供を受けることとなった。開発の経緯などを同社ニコニコ事業本部 企画開発部 担当部長の杉谷保幸氏に聞いた。

(聞き手は大谷 晃司=ITpro

Niconico Live Encoderを使うことで、これまでの番組配信と何が変わるのか。

ドワンゴ ニコニコ事業本部 企画開発部 担当部長の杉谷保幸氏
ドワンゴ ニコニコ事業本部 企画開発部 担当部長の杉谷保幸氏

 最初にニコニコ生放送で「ユーザー生放送」を配信する際、何をする必要があるかを説明したい。まず、配信できるユーザーはプレミアム会員だという前提がある。そして配信するには番組開設の手続きをして番組枠を確保する。

 実際に配信するには、二つのパターンがある。一つは「かんたん配信」を使うこと。我々が用意しているFlash内蔵のツールで、追加ソフトなしで簡単に配信できる。欠点は画質があまりよくないことと音がモノラルであること。もう一つはサードパーティー製の配信ツールを使う方法。実際にニコニコ生放送で番組を配信するユーザーの半分は外部のツールを使っている。

 Niconico Live Encoderは外部のツールを使う際の手間を少なくして初心者でも簡単に生放送を配信できるようにすることを目的としている。Niconico Live Encoderを提供する前は、多くのユーザーは米Adobe Systemsのサイトにアクセスして「Flash Media Live Encoder 3」をダウンロードし、説明に従って初期設定ファイルをダウンロードして読みこませるなどの作業をしていた。

 その結果得られるのは最低限のきちんとした画質とmp3の音声。新しくニコニコ生放送で配信したいというユーザーにはハードルが高かったのが現状だった。Niconico Live Encoderは、ビットレートの設定や解像度は最初からお勧めの状態がセットされている。最低限これがあれば配信を始められる。

Niconico Live Encoderの開発の経緯を教えてほしい。

 Niconico Live Encoderには元になったソフトがある。香港のSplitmediaLabsという会社が開発した「XSplit Broadcaster」というエンコードソフトだ。これを使うのがニコニコ生放送のユーザーの間で流行した。それを知ったSplitmediaLabsの方が日本まで営業に来てくれた。

 当初はこれで機能的には十分だと思っていたのでOEMを考えていた。また、AACやH.264のパテント代もかかる。その負担などの交渉もしていた。ただOEMの場合、将来的に独自機能を搭載することが難しくなる。

 こうした交渉を続ける中、先方が「じゃあSDK作るよ」と言ってくれた。「エンジンはこっちで提供するから、ユーザーインタフェースや独自の機能はそっちで付ければいい」との提案をもらった。時間はかかったが今後につながるベストな方向に進んだ。

 その結果、SDKである「XSplit White Label Toolkit」をベースにNiconico Live Encoderを開発することができた。XSplit Broadcasterは現在は無料で利用できるが、いずれ有償になる予定のソフトウエア。Niconico Live Encoderを使うことで、XSplit Broadcasterが有償になったとしても、有償版相当の機能をユーザーはすべて無料で使えることになる。もちろん、SDKの料金やAACとH.264のパテント代はドワンゴが負担している。

今後もFlashを使い続けるのか。

 ニコニコ生放送に関してはFlashを維持しつつ、HTML5にも対応していく。Flashを維持する一番の理由は、動画をストリーミング配信するプロトコルであるHTTP Live Streaming(HLS)が、プロトコル的に現状はラグ(遅延)が大きいこと。Flashが使える状況であれば、Flashの方がラグは小さい。とはいえHTML5への対応は進めていく。