インターネット上のポイントサービスを運営するネットマイルは2012年3月1日、社内の研究組織「ネットマイルラボ」を発足させた。社内のエンジニアやデザイナーが横断的に集まり、最新のインターネット技術の研究や新たなサービスの開発に取り組む“特命チーム”である。ネットマイルの創業者であり2010年2月にCEO(最高経営責任者)としてカムバックした畑野仁一氏と、2011年5月からCTO(最高技術責任者)を務める濱本暁氏にラボ発足の背景や今後の展開について聞いた。

(聞き手は高槻 芳=ITpro


どのような経緯でネットマイルラボを発足させることにしたのか。

ネットマイルCEOの畑野 仁一氏(左)と同CTOの濱本 暁氏(右)
ネットマイルCEOの畑野 仁一氏(左)と同CTOの濱本 暁氏(右)
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畑野氏:当社のCEOに着任してから2年間、私は「創業時のチャレンジ魂を取り戻す」という思いを持って経営改革を進めてきた。狙いは、利益を追求するあまり保守的になりがちだった社風を一新させ、次世代のサービスを作り出して売り上げを拡大することだ。この施策の集大成として今回、ネットマイルラボを正式に立ち上げた。

 当社は創業から一貫して、インターネット上のポイントサービスを手掛けている。ポイントは電子マネーや現金、マイルなどに交換できるので、一種の仮想通貨のようなものだ。“通貨”を扱う企業である以上、その流通を支える基幹システムについても、金融機関と同じような信頼や信用が求められる。だから当社のエンジニアが“堅牢な基幹システムを作ってきっちりメンテナンスする”というスタイルに長年こだわってきたのも分かる。

 しかしそうした手堅いスタイルを守り続ける間に、インターネットの世界は急激に変わってしまった。クラウドやソーシャルメディア、スマートフォンなどの技術トレンドを上手にとらえ、革新的なサービスを生み出す新興企業が続々と登場している。こうした中で我々が成長していくためには、技術主導で新サービスを生み出せるような体制に変えていく必要がある。そう考えてラボを設立した。

 そうは言っても、いきなり新しい組織を作ったのではなく、社内のエンジニアによる“勉強会”がラボの原型になっている。この勉強会は、CTOを務める濱本が入社直後に始めたものだ。彼はかつて(ネット広告やインキュベーションを手掛ける)ネットエイジ(現ngiグループ)のエースエンジニアで、当社の開発案件にかかわった経験もあるので、昨年(2011年)5月に招き入れた。

濱本氏:ネットマイルの基幹システムはインターネット関連企業とは思えないほど堅牢だが、一方で拡張性には乏しい。当社がこれから新たなサービスを展開していくためには、システムインフラを別に構築する方が得策だ。現行の基幹システムにとらわれず、柔軟な発想で新システムの在り方を検討し、構築していく必要がある。

 ただし私が入社した当時、システム化計画を立てて実行していくべき技術部門には悩ましい問題があった。特に気になったのは、新しい知識や技術の習得に対するモチベーションが今ひとつだったことだ。他のネット企業にいるエンジニアのように会社の枠を超えて交流し、最新の技術トレンドに触れて刺激を受けるといった機会が少ないように思えた。

 まず現場の空気を変えていかなければ、新しいサービスや次世代のシステムについて面白く有益なアイデアなど出てくるはずがない。こう考えて6月頃から、エンジニア同士が気軽なブレストを行うための勉強会をスタートさせた。この“草の根”活動が活発なうちに、いよいよ正式なチームとして“昇格”したわけだ。

ラボのメンバー構成や活動内容は。

濱本氏:ネットマイルラボは部門横断型のチームで、現在のメンバーは14人だ。技術部門のエンジニアはもちろんだが、ほかにもクリエイターやWebデザイナー、事業開発担当などバラエティ豊かな顔ぶれがそろっている。参加している社員は日々の業務とは別に、業務時間の10%をラボの活動に充てることができる。この時間は、自分自身のスキルアップや知識習得に使うだけではない。新しいサービスのアイデアをメンバー間で共有し、ブラッシュアップしていくうちに、新たな開発プロジェクトが立ち上がることもある。

 ラボでの活動が、技術部門の“本業”にも良い影響を与えているようだ。部内では今、将来的な基幹システムの見直しに向けて技術検証を始めている。この仕事では、エンジニアたちが積極的にアイデアを出すようになった。例えば「あの仮想化技術を活用すればシステムサイズをこのくらいまで最適化できそうです」「ハイブリッドクラウドの採用も視野に入れて検討しましょう」といったようにだ。

今後の展開を教えてほしい。

畑野氏:革新的なサービスを生み出すには、「新しいモノを作りたい」という意欲のある人に集まってもらうことが最も重要だ。そのための象徴的な場としてネットマイルラボを強化しつつ、エンジニアの採用活動により一層力を入れていく。日本の新卒技術者はもちろんだが、当社はアジアを中心とした海外の技術者も積極的に採用するつもりだ。

 また、新サービスについても準備を進めている最中だ。ユーザーと当社の間でポイントサービスよりも“ゆるい”つながりを構築するようなものを考えている。詳しいことはまだ言えないが期待してほしい。