タブレットも制作端末に進化

企業においてスマートフォンやタブレット端末はどれくらい普及する、あるいは重要性を増していくと考えていますか。
スマートフォンやタブレット端末は情報活用のためのデバイスとして広く普及すると思います。特にタブレット端末は、コンテンツを作成するツールとしても発展するはずです。
次世代のタブレット端末は、標準でペンが付いたものになるでしょう。そうなると、タブレット端末でのコンテンツ制作が容易になります。我々はそうした状況を想定して、タブレット端末上でクリエーティブな作業を行えるようにするアプリ「Touch Apps」を最近リリースしました。
タブレット端末はPCの補完デバイスとして使われているのが現状です。ただ今後、タブレット端末で様々なイノベーションが起こるのは間違いありません。
タブレット端末のイノベーションとは具体的には何ですか。
例えばAdobe Touch Appsを搭載すれば、タブレット端末上でのWebサイトのプロトタイプづくりや、ドキュメントのアウトラインづくり、写真の加工などが可能になります。作成したコンテンツは、デスクトップPCのアプリケーション「Creative Suite」で統合利用できるほか、当社のクラウドサービス「Creative Cloud」と連携することも可能です。
以前、起業家が食事中に思いついた事業計画をレストランのナプキンに書き留めたという逸話がありますが、今後はタブレット端末に書くようになるでしょう。PCは世に出てから30年ほどたっており、その間に多くのイノベーションがありました。タブレット端末も同じで、想像もできないようなアプリも誕生するでしょう。
2012年に提供を開始するCreative Cloudは、どのようなサービスなのですか。

Creative Cloudの主な目的は、クリエーティブな仕事のプロセスを変革することです。例えばインタビューでノートにメモを取る代わりに、タブレット端末を使ってコンテンツとして作成すれば、Creative Cloudに自動的にアップロードできるようになります。写真も付けておけば、編集者がそれをまとめて、即座にWebサイトなり、ブログなりに投稿することが可能になります。
さらに、数カ月前にリリースした「Digital Publishing Suite」を使うことで、スマートフォン向けのアプリを提供し、コンテンツに課金することも可能になります。Creative Cloudが制作プロセスの変革を目指すものであるのに対して、Digital Publishing Suiteは制作したコンテンツの配信と収益化を図るものと言えます。
そうした本格的なコンテンツ制作・配信用のツールも一般企業で使われるようになりますか。
もちろんです。一般企業のマーケティング部門の多くは、Creative Suiteを使ってコンテンツを制作しています。アドビ全体のビジネスのなかでも、一般企業向けに販売している比率はかなり高いのですよ。
日本の企業でも、Digital Publishing Suiteを使って、企業のブローシャーや営業資料などをデジタル化し、営業担当者のタブレット端末に配信している事例があります。Digital Publishing Suiteに関しては、長期的には出版社よりも一般企業が採用するケースが多くなってくると考えています。
標準があるなら使い進化させる

HTML 5のサポートを強化していますが、今後のコンテンツのフォーマットとしてHTML5をメインに扱うと考えてよいですか。
HTML 5は、ブラウザーベースのフォーマットとして革新性の高い機能を有しています。アドビは標準が存在しない場合、標準を創り出そうとします。標準が存在する場合には、その標準を使い、自らの技術で標準をさらに向上させ広げていくことを考えます。
我々は最近、HTML5などをベースにしたモバイルアプリ開発フレームワークを提供するフォンギャップを買収しました。さらに、Webフォントのクラウドサービスを手がけるタイプキットも買収しました。オープンソースのHTMLレンダリングエンジンの「WebKit」などに対して貢献もしています。
ですから、アドビはHTML 5に対して良いポジションにいると思います。HTML 5を進化させることに対してもそうですし、HTML5のツールやソリューションを提供することに関してもそうです。もちろん一夜にして求められる機能の全てが実現されるものではありません。しかし今後2~3年の間には、HTML 5に関して数多くの取り組みが行われることでしょう。
シャンタヌ・ナラヤン
(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)