米Salesforce.comは2012年1月末、電話や電子メールだけでなく、FacebookやTwitterといったソーシャルメディアをカスタマーサポートに活用するクラウド型のヘルプデスクサービス「Desk.com」を発表、提供を開始した(関連記事)。同社はカスタマーサポート向けのクラウドサービス「Service Cloud」を既に提供しているが、Desk.comは、より中小企業向けに使いやすくしたという。Service Cloudとの違いや同社の狙いをセールスフォース・ドットコム 執行役員 プロダクトマーケティングの榎 隆司氏に聞いた。

(聞き手は大谷 晃司=ITpro

ソーシャルメディアとカスタマーサポートやヘルプデスクのかかわりを教えてください。

セールスフォース・ドットコム 執行役員 プロダクトマーケティングの榎 隆司氏
セールスフォース・ドットコム 執行役員 プロダクトマーケティングの榎 隆司氏

 ユーザーがTwitterで何をポストしているか、Facebookでどのようなことを発言しているか、LinkedInでどんな人とつながっているか――こういった情報は非常に重要です。

 これまでは、コールセンターのオペレーターが見ているコンソールをいかにクラウドで提供するか、ということに取り組んできました。それが徐々にソーシャルの時代に移り、サポートセンターにお客さんが電話をしてくれないケースが増えています。

 お客さんはどうしているかというと、Twitterでつぶやいていたり、Facebookページでディスカッションしていたりします。よって、ソーシャルのデータが非常に大事です。カスタマーサポートでこの声を集めて、それに対してプロアクティブに(先を見越して)どう対応するかが重要になってきています。

 実際に米国では次のような事例も起きています。例えば、バンク・オブ・アメリカがATMの手数料引き上げを発表したとき、ある有名人がTwitterに「こんなのあり得ない」などとポストしてそれが“炎上”。結局バンク・オブ・アメリカは引き上げを取り消しました。

 また、全米自動車協会(The American Automobile Association、AAA)が飲料メーカーと組んで、年末のパーティーなどで飲酒した人のために「車を無料で牽引します」というプロモーションをしました。ところが利用者から大量の苦情がきたのです。なぜかというと「牽引する距離は10マイルまで」「サービスは限られた州だけ」といった制限があったのですが、これが明確に伝わっていなかった。良かれと思ってやったものが、情報が不十分だったため“炎上”した事例です。

 こうした事例を見ると、カスタマーサポートは、トラブルに遭って電話をしてきた人の声だけでなく、ソーシャルの世界の声にも耳を傾けるべきであることが分かります。

Desk.comはどういった点が中小企業に向いているのでしょうか。

 カスタマーサポートやヘルプデスクは、顧客とサービスをつなげる部分です。この部分についてセールスフォースでは既に「Service Cloud」を提供しています。これをソーシャルエンタープライズの中に位置付けて、ソーシャルメディアとの連携を強化してきました(関連記事)。既にSales Cloudを使ってソーシャルメディアの声を取り込んで、それらを分析する仕組みを構築することはできます。

 ただし、全部に対応しようと思うとインテグレーションが必要な場合があったり、ライセンス料金が多く発生したりして、中小規模の企業向けには簡単に導入できなかったのが現実です。そこで、中小企業に対するソリューションとして提供するのがDesk.comです。Assistlyという会社を買収して、同社が提供していた機能を使って実現しています(関連記事)。

 Desk.comのいいところは電子メールや電話だけでなく、最初からFacebookページやTwitterのポストをチャネルとして統合している点です。そしてすごく簡単に登録ができてカスタマーサポートを開始できます。設定自体は5分程度です。米国では既にユーザー事例があり、例えば米Instagram(写真を共有するソーシャルネットワーキングサービスを提供している企業)は1000万人以上ものユーザーを抱えていますが、Desk.comを使って6人でカスタマーサポートをしています。同社の第一のサポートチャネルはTwitterです。

Sales Cloudと比べると機能は限られているのでしょうか。

 「中小企業向けで簡単です」といっても機能が限られているわけではありません。例えば、エージェントコンソールも引けを取りません。iOSやAndroid搭載スマートフォン向けのインタフェースも最初から用意されています。お客さんの声をリアルタイムに見ることができる。料金は米国では月額49米ドル、日本円では4800円か4900円程度になるでしょう。Salses Cloudだと月額数万円はかかります。Desk.comの現状のユーザーインタフェースは英語ですが、日本語の表示、検索や入力もできる。現在ローカライズをしている最中です。

 なぜ安いのかというと、カスタマイズがあまりできないようになっているからです。最初からビルトインで、設定は問いに答えて進めていくだけです。「こういうワークフローで組んでいきましょう」などと設定するようにはなっていません。例えば日本だと「mixiと連携したい」ということがあるかもしれません。Service Cloudは他のAPIと連携して他のメディアとつなぐなどの拡張性を備えていますが、Desk.comは限定的です。

今後日本向けに「mixi」をチャネルとして追加する予定はありますか。

 今後はあるかもしれませんが、現状は未定です。セールスフォースのサービスの中で、例えば(ソーシャルメディア解析ツールの)「Radian6」は(掲示板サービスの)「2ちゃんねる」などをデータソースとして使えるように動いています。多くの企業がmixiページを使っていて無視できないのであれば、今後のロードマップに乗ってくる可能性はあります。