KDDIウェブコミュニケーションズは、2011年末に新ブランド「CloudCore」を掲げ、クラウド事業(仮想化技術を適用したIaaSサービス)に参入した。月額制で価格を低く抑えている点が特徴だ。ITproは、同社でホスティング事業担当の副本部長を務める角俊和氏に、CloudCoreの狙いを聞いた。

(聞き手は日川 佳三=ITpro


クラウド事業(仮想化によるIaaS/PaaS)に参入した狙いは。

KDDIウェブコミュニケーションズ、ホスティング事業担当、副本部長の角俊和氏
KDDIウェブコミュニケーションズ、ホスティング事業担当、副本部長の角俊和氏

 1997年からサーバーホスティング事業に従事してきた。この一方で、いわゆるクラウド(完全仮想化型の仮想化技術を適用した、どんなOSでも利用できるIaaS)への取り組みは遅れていた。市場で仮想化技術が成熟し、評価が定まってきたことなどから、新ブランドを立ててクラウド事業に参入した。

 クラウド事業者としては後発に当たるので、後発ならではの特長を出せるよう、顧客の声や市場動向を踏まえてサービス内容を検討した。クラウドを取り巻く世の中の現状は、AWS(Amazon Web Services)を真っ先に連想し、Amazonの背中を追っているというもの。この状況に対して「果たして、これでいいのか」と考えた。この上で、AWSとは異なるアプローチを採用することにした。

 AWSに代表される著名なクラウドの特徴は、従量課金であるということだ。使いたい時に使いたいだけ使い、リソースを自動的にスケールさせることもできる。この方式は、シリコンバレーなどでは適している。2~3人で起業して、一気にシステムを作り、バイアウトする、というモデルだ。従量制は、この場合のサーバーコストを可能な限り低く抑えてくれる。

 これが日本のエンジニアにとって使いやすいと言えるのだろうか。従量制って、本当に必要だろうか。携帯電話の料金と同じで、上限が無いと怖いのではないのか---。こういう疑問を持った。従量制の下で料金を上手にコントロールしようと思ったら、管理画面やWeb APIを使いこなさなければならず、ただ単にサーバーを利用したいというエンジニアには敷居が高いだろう。

 日本のエンジニアが持つリアルなニーズは、「今あるサーバーを、クラウドに移行して、運用管理をラクにする」というもの。クラウド運用管理の仕組みを覚えてクラウドインフラを使いこなすことに注力するのではなく、もっと気軽に、今まで使ってきたLinuxサーバーと同じ感覚で使えるほうがいい。こうした目線でクラウドサービスを開発した。

対象ユーザーと、狙いは。

 ターゲットが異なる二つのサービスを用意している。シンプルな「CloudCore VPS」と、業務ユースの「CloudCore Hybrid」だ。VPSは「自由に使える仮想マシンを、かなり安い価格で提供する」というコンセプト。後者のHybridは、用途の相談を受けて、物理/仮想サーバーやネットワーク機器、各種ミドルウエアの設定を含めたシステム一式を用意する。

 CloudCore Hybridの狙いは、大手SIベンダーと比べて破格の金額で、ユーザー企業の用途に合ったベストプラクティスのシステム構成を提供する、というもの。大手SIベンダーのサービスは大規模ユーザーを想定してコストがかかっており、数十人規模の中小企業には向かない。CloudCore Hybridは、中小企業が手軽にサーバー環境を調達する用途向けに、コストを抑えている。

 コストを抑えられる理由はこうだ。そもそも、これまで蓄積してきたシステムインフラ構築/管理のノウハウを顧客に提供することの対価として、そんなに多くの料金を取る必要はないという考えを持っている。また、導入時のヒアリングやサポートにかかるコストも下げている。ユーザーごとに選任の担当者を付けるが、基本はオンサイトではなくオンライン(メールとチャット)で対応する。

クラウド運用ツールは独自に開発したのか。

 仮想化基盤はLinuxのKVMを利用しており、クラウド運用ツールはPerlで独自に開発した。OpenStackなどのクラウド運用ソフトをそのまま使うのではなく、ユーザー用の管理画面やデプロイ(配備)管理ソフトを、約2カ月かけてフルスクラッチで書き上げた。自社で開発したことにより、機能拡張やメンテナンスがしやすくなった。

 リリース後に追加した機能には、リモートコンソールなどがある。同機能によって、事実上、ユーザーは何でもできる状態になっている。好きなOSイメージを書き込むことも可能だ。このほかにも、間もなくリリースする機能では、OSを初期導入時の状態にボタン一つで戻せるようにする。

どのようなOSが使えるのか。

 メニューからOSを選ぶこともできるし、2012年前半には、ディスクイメージの抽出/登録機能を提供し、任意のOSイメージを利用できるようにする。現時点でメニューから選べるOSはCent OSだけだが、2012年3月から4月にかけて、Ubuntu、Debian、FreeBSD、NetBSDの4つを追加する。

 OSにはこだわった。どんなOSでも利用できるようにしたかった。実際に、ユーザーの需要を見てみると、昔のOSを動かしたいという声が大きい。クラウドで一から新たなシステムを作るケースは少なく、何らかの形で動いていたシステムをリプレースする要件が多い。古いOSを動かす必要がある。

 特に、BSD系UNIXは、使えるようにしたかった。OSのシェアで言えば、間違いなくCent OSとRed Hat Linuxが1位と2位を占めるはずだが、アンケートで需要を聞くと、UbuntuとBSDを欲する声が非常に大きい。KDDIウェブコミュニケーションズ自身もFreeBSDを長く使ってきた会社であり、資産の多くがFreeBSDの上で動いている。

ハードウエア資源の面で工夫したポイントは何か。

 サービスの提供コストを重要視するに当たって、ハードウエアの運営費も最適化した。ポイントは電力だ。1ラックに使える電力には上限があるので、単純に集積度を上げれば費用を抑えられるというわけではない。「1ラックに、どれだけ多くのCPUコアを積めるか」という観点に立ち、シビアに消費電力を計算してハードウエアを選んだ。

CloudCoreの今後の展開は。

 「エンジニアから見て、本当に使いやすいもの。日常的に使えるもの」を目指している。マルチOS対応といった特長も、これを目指したもの。将来的には、Amazon互換のAPIを搭載し、米RightScale社のクラウド統合運用ツールなどから管理できるようにする。また、他社のIaaSとの間で相互に仮想マシンイメージをやり取りしたり、複数のクラウドにまたがって冗長構成をとったりできるようにする。