水平対向エンジンなど独自の機構を持つスバル車は熱心なファンを抱える。自動車市場においてニッチャーである富士重工業は、そうした「スバルらしさ」を前面に打ち出したブランド戦略で、膨張するグローバル市場での生き残りを目指す。その前提となる国内営業改革を成功に導いた吉永泰之社長に、スバルの進む道とIT活用に関する考えを聞いた。
今年6月に社長に就任し、7月からは新しい中期経営計画がスタートしました。まず事業の方向性について聞かせてください。
当社の場合、売り上げのほとんどは自動車です。自動車産業は国内だけを見たら成熟産業ですが、全世界で見るとまだまだ成長産業です。2010年の世界の総需要は約7000万台ですが、2015年には9400万から9500万台、強気の見方だと1億台になると言われています。ただし、伸びるのは中国などの新興国市場です。
では、我々はどうか。スバルの2010年度の販売台数は65万台ですが、これを100万台ぐらいにしたいと考えています。これには重要な意味があります。世界シェアで1%であり続けるということなのです。そして、シェア1%の会社とは何なのだろうかと言うと、コストを競争力の源にする会社ではないということです。極めて差異化された個性的な存在として生き残っていかねばなりません。
ですから、いたずらに量の拡大だけを追うのではありません。「スバルらしさ」という言葉を我々は使いますが、一番大事なのはブランド戦略です。中計でも「信頼と革新」という行動指針の次に書いたのは、「新たなスバルらしさの追求」です。
我々は米国に続き、中国でも現地生産を目指しています。巨大市場がそこにあり、なおかつ年間6万台を販売しているからです。中国で安い車をつくって、全世界に輸出しようと思っているわけではありません。我々は規模が小さいので現地生産をするのは、その国に大きな需要がある場合だけです。
コモディティー化と一線を画す
確かにスバルの熱心なファンはいます。しかし、自動車のコモディティー化も進んでいます。
よく「富士重工の強みは何か」と聞かれますが、私は「これだけ熱狂的で固定的なファンに支えられている製造業は強い」と言っています。「スバルにしか乗らない」と話す顧客がいて、「スバリスト」という言葉があるほどです。海外でもスバルファンの間では通じる言葉です。
確かに自動車はコモディティー化が進んでいます。軽自動車を扱う会社では、ショールームでボンネットを開けることはないそうですね。「冷蔵庫を売るときに、冷蔵庫のモーターの話はしないでしょう」と他社の営業担当者に言われたことがあります。
でも、スバルは違います。営業担当者は今でも、エンジンなど機構を一生懸命説明しようとします。やはりスバルの場合、他社にはない機構の魅力だとか、「ぶつからない車」のアイサイトとかいった付加価値で勝負すべきなのです。それは海外でも同じで、中国でも、そのブランドイメージを大事にしたいと思っています。
資本提携するトヨタグループから軽自動車などのOEM供給を受けています。それらの車種でスバルらしさを出せるのですか。
スバルが生き残るには個性を生かすことに尽きるのですが、一方で国内の販売チャンネルを維持することも考えなければなりません。我々は国内に500店舗の営業所を持っています。地方にも営業所がありますが、そこに「300万円のレガシィを月に何十台も売ってくれ」と言うのは無理です。東京や県庁所在地なら何とかなりますが、小さな町の営業所では厳しい。そうした営業所を守るために、軽自動車が必要なのです。
業務の物理的集約で改革に成功
そう言えば、社長就任前に国内営業改革の指揮を取りました。
規模の大きな東京スバルや北海道スバルなど4社を除き、東北や甲信越・北陸、東海、中国・四国など全国6カ所で統括会社体制を導入しました。近畿と九州で先行させた後、全国で導入しました。
本来ディーラーは、どこでも同じ仕事をしているはずです。ところが実際は違う。近畿の大阪スバルと京都スバル、兵庫スバルは、サービスの一つをとっても、互いにどういうやり方をしているか知りませんでした。業務を統括会社に集約してはじめて、同じディーラーなのにやり方が全く違うことに気づいたのです。
吉永 泰之(よしなが・やすゆき)氏
(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)