リアルタイムに時々刻々と生成される大量のデータから、いかに知見を見出してビジネス戦略に生かすか――。ビッグデータ活用が情報システムのあり方と企業戦略を大きく変えようとしている。富士通は大量のセンシングデータを分析して活用するためのクラウド基盤「コンバージェンスサービス」を提供している。この基盤を生かしたビッグデータ活用の進展を聞いた。(聞き手は田島篤=ITpro)

昨今のビッグデータに対する関心の高まりをどのように捉えているのか。

富士通 小林 午郎氏
富士通 コンバージェンスサービスビジネスグループ インテリジェントサービス本部 戦略企画統括部 統括部長
小林 午郎氏

(小林)ビッグデータという言葉が広く使われ始めたのは昨年ぐらいからだ。従来のBIで対象としていたのとは比較にならない膨大なデータを扱えることと、「コンバージェンスサービス」を通じた新しいビジネスの創出の両面でビッグデータを捉えている。

 膨大なデータということでは、量そのものよりも、その価値に注目すべきである。技術革新により従来は扱えなかったデータを分析して価値を引き出せることに意味がある。そして、さまざまな種類のデータを“掛け合わせる”、言い換えれば多種多様なデータを組み合わせて知見を引き出して新たなビジネスを創出するのがコンバージェンスサービスの狙いである。

(徳永)このコンバージェンスサービスには、データの新しい使い方も含まれる。例えば、従来は機械の補修のために、エラーデータを検出していたとする。補修が終わったらそのデータは用済みで破棄される。しかし、新たなデータ活用ということでは、エラーデータだけでなく正常なデータを含めたあらゆるデータを検出して分析することで、機械の稼働状況を正確に把握して製造ラインを管理することが可能になる。

(小林)ネットワーク面からは、企業向けネットワークサービスの「FENICS(フェニックス)」を利用したM2Mサービスも提供している。コンバージェンスサービスというとアプリケーション面から捉えられることが多いが、今後はFENICSと連携するなどして、柔軟なビッグデータ活用を促進していく。

ビッグデータ活用を推進するうえでの課題は。

富士通
富士通 コンバージェンスサービスビジネスグループ インテリジェントサービス本部 戦略企画統括部 部長
徳永 奈緒美氏

(小林)課題の一つが、経営層にデータ活用の重要性を理解してもらうことだ。「出口」の分からない(用途がまだ決まっていない)データをまず貯めてくださいといってもなかなか理解してもらえない。やはり、経営トップが厳しい技術革新やサービス競争のなかでどのように生き残っていくのかを真摯に考えて、データ活用の重要性を認識してもらう必要がある。

 一例だが、自動車業界は、EV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド車)といった電動化で大きく変わり始めている。自動車業界だけでは解決したり差別化したりできない状況になりつつある。ここで自社製品やサービスの価値を高めるために、ICTおよびデータの活用が重要になっている。

 通信業などでは既に「つながった」状態で各種ログが蓄積されている。そのため、すぐにでもデータ活用できる体制が整っている。対して製造業は、これから「つながった」状態になる場合が多く、データ活用の余地は大きい。ただし、きちんと活用できるか否かは、経営層の認識の高さに依存することになるだろう。

 さらに、ビッグデータ活用で人の暮らしを良くするという観点では、個人情報の取り扱いが課題になる。個人情報に該当する範囲、それを利活用するときの許諾の考え方、データ保管の具体的な方法、などの課題がある。世界規模で考えると各地の文化にも関係してくるだろう。

 個人情報の取り扱いは、「利便性と情報管理のトレードオフをどのように考えるか」という情報リテラシーの問題でもある。我々は、新しいマーケットを創出し、認知を高めて理解を得ながら、人の暮らしを良くするためのデータ利活用法を提案していく。