リアルタイムに時々刻々と生成される大量のデータから、いかに知見を見出してビジネス戦略に生かすか――。ビッグデータ活用が情報システムのあり方と企業戦略を大きく変えようとしている。ビッグデータに注力するITベンダーに、ビッグデータ活用の重要性および従来の戦略的データ活用との違いなどを聞いた。(聞き手は井上健太郎/田島篤=ITpro)

データの戦略的活用という点でBIとビッグデータの違いは何か。

日本アイ・ビー・エム 野嵜 功
日本アイ・ビー・エム
ソフトウェア事業 インフォメーション・アジェンダ事業部ICP
野嵜 功氏

 BIからおさらいしていこう。BIを一言でまとめると、「生産・販売・開発といったさまざまな企業活動のなかで、現場で何が起きているかを、経営層や営業部門がリアルタイムに近い形で把握して、その場のビジネス判断に生かすこと」となる。

 従来のBIの使われ方からすると、「既存の情報を集めてきて表示するだけ」と思われがちだが、これだけでも簡単ではない。国内の活動だけなら実現できているかもしれないが、海外進出先の現場で国内と同様に実現できるかというとなかなか難しい。グローバルで活動している企業がさまざまな生産拠点を一元的にまとめた形で製品原価や利益率などの情報を把握するのは容易ではない。

 グローバルできめ細かく、リアルタイムに経営判断していこうというときにBIが重要になる。例えば、タイの洪水のときには、「この製品はタイではいくらで作っているが、別の国ではいくらでできる。そのため、移管しよう」といった判断が可能になる。こうした意味でBIはグローバル化に必須のツールである。

 特定の拠点レベル、あるいは国内限定では既に把握できているかもしれない。しかしながら、全体として最適化しようとすると、「データ形式が異なるので一元化できない」ということがあり得る。最適化のベースとしては、データ形式を統一したうえで、個々のデータをきちんと集めてきて、状況をガラス張りにしましょうというのが不可欠だ。これがBIの基礎となる。

このBIとビッグデータの違いは?

 BIとビッグデータの違いを考えると、ポイントは二つある。

 一つは、従来のデータよりも扱う数量が増えてきたこと。グローバルでみれば経済規模は依然として伸びているので、データ量も当然増えている。

 もう一つは、これまではBIの対象にならなかった種類のデータが登場してきたこと。例えば、携帯電話やスマートフォンのデータだ。これらのモバイル機器は、SNS(Social Networking Service)の発信、GPS(Global Positioning System)のログ、サイト閲覧情報、購入履歴、といった膨大なデータの発信源になっている。

 例えば、海外の携帯電話会社がビッグデータに注目しているのは、通話履歴のログが有効なことに気が付いたからだ。通話履歴は従来、月次で集計して利用料金を集計するためのものだった。この人は何分話したというデータを3カ月分ぐらい蓄積し、その後は使い道がなくて破棄していた。

 ところが最近は「通話履歴を捨てるのはもったいない」と言われ始めた。通話履歴は、いつ、どこで、だれがだれに通話したというデータだ。なので、例えば、従来は昼間に電話することが多かったのに、最近は夜間に電話するようになった、ということがわかる。この場合は、転職して行動形態が変わったのかもしれないし、ひょっとしたら持ち主は携帯電話を落としてしまい、別の人が拾って使っているのかもしれない。不正に使われると、電話会社は課金することができないので、売上減になる。そこで、不正利用を素早く把握するのに通話履歴を使おうとし始めている。

 また、だれがだれに電話したというデータなので、それをグラフ化すればソーシャルグラフが描ける。そうすると、ある人が基点になって周囲に頻繁に電話している、といったこともわかる。その人を中心にしたコミュニティの存在を把握できる。周囲への影響を考えると、その人が電話会社を変えないことは重要である、といった事柄が察知できるわけだ。

 こうしたことから携帯電話会社は、3カ月で通話履歴を捨てていたのは間違いだったととらえている。5年でも10年でも保存しておいて、ソーシャルグラフを活用してビジネスに活用すべきだ、と認識を改めている。通話履歴が単なる「課金用のデータ」から、「行動履歴、ソーシャルグラフ用のより重要なデータ」に変質したわけだ(注1)。

注1 海外における事例を紹介するものであり、日本においても実施が可能であることを意図するものではない。