NECビッグローブの前社長で現在は顧問を務める飯塚久夫氏。飯塚氏は構成員を務めた総務省の委員会などで「ネット中立性の議論が再び必要では」と主張している。その真意を聞いた。

(聞き手は堀越 功=日経コミュニケーション、取材日:2011年10月3日)


構成員を務めた総務省の「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方に関する検討会」で、「ネット中立性の議論が再び必要では」と主張した。そのわけは。

NECビッグローブ 顧問 飯塚 久夫氏
NECビッグローブ 顧問 飯塚 久夫氏
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 世界的にインターネットを取り巻く環境が変わりつつあるからだ。米国では2010年の暮に、米FCC(連邦通信委員会)が新しいネット中立性のルール「Open Internet Order」を出した。

 米国はアクションを起こしているが、日本では反応がない。民間だけでやってもコンセンサスにならない。よい意味で官がリーダシップをとらなければ実を結ばない。そのため総務省に、日本でも議論を再開してくださいとお願いをした。

どのように環境が変わりつつあると認識しているのか。

 ネット中立性の基本的な視点は、かつての日本での議論と同じように、ネット利用とコスト負担の公平性のバランスをいかに取るかだ。そのバランスの構造が、今大きく変わりつつあると認識している。

 日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)が数年前から指摘しているように、一部利用者によるトラフィックの専有がますます進んでいる。下りのトラフィックは上位1%のユーザーが約50%を専有している。上りのトラフィックは上位1%のユーザーが約8割を専有している状況だ。このようなユーザーも、月1時間しか使わないようなユーザーも同じ料金で提供されている今のブロードバンドサービスは、はたして公平と言えるのか。もう一度、議論すべきだ。

 利用者からすれば、なるべく安い料金のほうがよい。しかし今やインターネットは社会基盤、ビジネス基盤だ。産業として成り立たなければ、サービスも成り立たない。かつてのボランティア精神だけでは立ちゆかない。そうなるとコスト負担の公平性の問題となる。

 利用者、サービス提供者、接続事業者、伝送路や土木設備を提供している通信事業者、コンテンツプロバイダー。それぞれの事業者のバランスが取れなければ産業としての発展はない。発展がなければ、そのツケはユーザーに回ってくる。それが問われる時代にきたのではないか。改めて議論してほしい。