セコムは東日本大震災の教訓から、従来のセキュリティサービスの枠を越え、家庭向け、企業向けとも多様でトータルなサービスの提供を目指す。その際に、重要となるのがグループ会社の総力を結集したサービスづくりだ。自らを「社会システム産業」と定義して、ITをフル活用して事業領域を拡大する。そのセコムの前田修司社長に事業戦略を聞いた。

前田 修司氏
写真:陶山 勉

東日本大震災では、セキュリティサービスを提供する企業として、様々な課題に直面したかと思います。

 東日本大震災は、セコムが今後何をしなければいけないのかということを再認識させられた事象でした。例えば、我々が十分なサービスを提供していると思っていたことでも、実は顧客のセコムに対する期待はもっと幅が広く大きかったのです。

 被災した顧客に会うと、「もっと速く来てほしい」とか、「こういうこともやってほしい」とかといった要望がいろいろと出てきました。セコムは200社弱の連結対象のグループ会社で数多くのサービスを提供していますが、サービスの深みと幅の両方をこれまで以上に追求していかなければならないと思っています。

生活密着型のサービスへ

顧客の期待に対応しきれていなかったというのは、具体的にはどういうことですか。

 例えば震災では、多くの家庭で身分証明書や通帳、印鑑、そして家族の写真などが津波で失われてしまいました。セコムは今まで防犯や防火といったセキュリティを中心に家庭に対してサービスを提供してきましたが、こうした大切な情報を保管するサービスは提供してきていませんでした。

 家庭に設置したセコムの端末は、PCとは違い24時間365日稼働しています。もちろん、セコムはセキュアなデータセンターも持っています。そうした端末や設備を持っていながら、なぜ今までそのようなサービスを提供してこなかったのか。やはりセコムがやるべきだろうということで、12月から個人情報を預かる新たなホームセキュリティの提供を始めることにしました。

前田 修司氏
写真:陶山 勉

 新たなホームセキュリティでは、端末にカメラやSDカードのインタフェースが付いていて、撮影した健康保険証のデータや家族写真のデータなどを取り込んで、データセンターで保管することができます。こうした発想が今まで抜け落ちていました。

そのホームセキュリティ事業の現状を教えてください。

 ホームセキュリティの普及率は全世帯の2%弱に過ぎません。セコムのシェアが8割以上だと言っても、まだまだです。もっとパイを大きくしていかなければなりません。その意味でも、新たなホームセキュリティの端末を、セキュリティだけではなく生活密着型のサービスを提供する端末として展開していく必要があると思っています。

 実は、この端末ではネットスーパーのようなサービスも提供できるようにしています。要するに、他の企業にも新たなサービスの仕組みを開放して、セコムの顧客向けの様々なサービスに活用してもらおうというわけです。家に帰ってきたらPCを見ないで、まずこの端末を見る。そうした生活と一体化した端末にしたいというのが、私の願いです。

5月に「ALL SECOM営業プロジェクト」を発足させグループの総力を結集するとしていますが、具体像を聞かせください。

前田 修司氏
写真:陶山 勉

 例えば七つの事業セグメントのなかにメディカル事業があり、介護付有料老人ホームなどの施設を展開しています。一方、不動産事業では、セキュリティなどが完備したマンションを開発しています。今後の高齢化社会や震災などへの備えを考えると、こうした施設を一緒にした高齢者向けの集合住宅があっていい。今、事業計画を作っています。今後、シナジーが発揮できるものを次々と出していければと思っています。

8月には住生活グループとも提携しました。

 今回の住生活グループとの提携は、セコムの顧客以外にもワンストップサービスを提供しようというものです。両社が協力すれば、住まいと暮らしに関する困りごとのすべてに対応できると考え、今回の提携となりました。

セコム 代表取締役社長
前田 修司(まえだ・しゅうじ)氏
1975年3月に早稲田大学理工学部金属工学科卒業。81年1月にセコム入社。97年2月に戦略企画室担当部長。97年6月に取締役に就任。2000年6月に常務取締役 グループ技術戦略担当。04年6月に取締役 常務執行役員、研究開発部門長と新事業開発部門長を兼務。04年12月に研究開発企画担当。05年4月に常務取締役、09年6月に取締役副社長に就任。10年1月より現職。1952年9月生まれの59歳。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)