ソーシャルネットワークの利用の程度については、個々人でかなり濃淡がある。人によってはそれを“気持ち悪い”と感じることもある。一方こうした状況下で企業のソーシャルネットワーク活用が並行して進んでいる。自らソーシャルネットワークを積極的に情報発信している早稲田大学大学院 情報生産システム研究科 客員教授の丸山不二夫氏に現状分析と企業利用について聞いた。

(聞き手は大谷 晃司=ITpro



早稲田大学大学院 情報生産システム研究科 客員教授 丸山不二夫氏
早稲田大学大学院 情報生産システム研究科 客員教授 丸山不二夫氏
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ソーシャルメディアについて「気持ち悪さ」のような感じを受けるユーザーもいるといったことを述べていました。その真意は。

 気持ち悪さとは元々漠然としたもの。具体的な形になれば恐怖とか嫌悪になるわけだから。正体がよく分からないっていうのが気持ち悪さの特徴なわけで、ネットワーク上のソーシャルな関係がどんどん進化するなかで出てきている現象だと思うんですよね(関連記事:ソーシャルの“気持ち悪さ”と“心地よさ” )。

 人と人との社会的な関係で言うと、そんなに日進月歩で進むわけではない。江戸時代は別にして昭和の時代のコミュニケーションのスタイル自体はそれほど大きな変化はなかった。基本的な人間の社会的関係は安定していたと思う。それがIT、ネットによって急速に変わり始めている。その変化のスピードに戸惑いがある、というのが一番大きな問題だと僕は思っていて、単純に言えば、そのうち慣れるだろう、とは思うんですよ。ただ本当に急激な変化だから、なかなかそれについていけない、もしくはついていかない人に抵抗感がある、というのが一番大きな気持ち悪さの原因だと思うんですよね。

 がんがん使っている人でも大きな失敗を犯したりしているわけで、言っちゃいけないことをツイートしたり、そういう反応があるのを分からずに一方的にしゃべってみたりと、先に進んでいるから使いこなしているというわけでもない。失敗例は山ほどある。ただ、全体としてはネットを使ってコミュニケーションや情報共有を進めるという流れは確実に進んでいく。

そもそもソーシャルメディアをどのようにとらえているのでしょうか。

 僕はソーシャルメディアってのは同語反復だと思っていて、メディアってのは元々ソーシャルなものなんですよ。ソーシャルネットワークと言うけど、元々そういったネットワークというのは社会関係の基本であって、それ自体は別に新しいことでもなんでもない。それがITの力、ネットの力で増幅・拡大されてそれが思わぬ効果を持つ、というところがこれまでとの違い。

 元々人間はソーシャルな生き物。社会的な関係性というのが人間性の基本なんで、それは何も変わっていない。それを増幅し、増強し、力を増すととらえればいい。何もソーシャルネットワークによって我々が初めて社会的な存在になったわけではないし、ネットワークなしでも僕らは社会的関係を持ち得る。ソーシャルメディアが新しいのかと問われればば新しくもないが、それでは昔のままなのかと言われればそうでもない。両面きちんと見ていかないと議論が混乱すると思うんですよね。

以前、電話が使われ始めた時期の話をされていました。

 今は電話の交換手がいないから誰も気にならないけど、電話が登場した当初は交換手に話を聞かれて気味が悪い、という電話普及の逆キャンペーンみたいな気持ちが広がったのは事実らしい。それがなぜ受け入れられたかというと、交換機能が自動化されたということではなく、誰もそれを気にしなくなった。というか電話による利便性とリスクの両面あるなかで、「あった方が便利だよね」という話になった。結局どちらかが勝つんだよね。