Facebookなどのソーシャルネットワークを企業のマーケティングに生かそうとする動きがここ1-2年活発だ。だが一方でその効果を疑問視する声も出始めている。ネット上のコミュニティを活用したマーケティングサービスを提供するエイベック研究所の代表取締役社長であり、「ソーシャルメディア進化論」の著者でもある武田 隆氏は、“Facebook万歳”的な“オープンになろう”といった風潮に警鐘を鳴らす。その理由やソーシャルネットワークによるマーケティングの現状を聞いた。

(聞き手は大谷 晃司=ITpro



エイベック研究所 代表取締役社長 武田 隆氏
エイベック研究所 代表取締役社長 武田 隆氏
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最初にFacebookの企業利用の現状について聞かせてください。

 企業はFacebookに対してもっと冷静に対処しよう、と言いたい。“Facebook”万歳の論調がマーケッターの期待値を上げるだけ上げているが、現実は違うと思う。我々もずっとFacebookでのマーケティングを調査しているが、うまくいっていると言われている企業のFacebookページでもコメントがつくのはせいぜい10から15くらい。

 例えば企業のコミュニティに1000人集まったらどれくらい発言量がでるか、というところから計算していくと、半端じゃない非活性具合。みんなコメントを書かない、という話なんですね。さらにそのコメントを読んでいくと、文章が言い切りで終わっている。

コミュニケーションしていない?

 言い切りというのは、相互にコミュニケ―ションを期待していないときの現象なんですよ。通常のコミュニティの場合、みんな応答を期待するので、クエスチョンで終わるんです。「皆さんどうですか?」「どうでしょうか?」といったように。でも先の例のFacebookページはほとんど言い切りになっている。

 これは知人を超えたコミュニケーションのハードルがすごく高いことを物語っている。企業と個人がつながる場合、趣味や思い、価値観でつながるのがほとんど。一部の商売を除き、現実の交友関係をつたって商売するというのはごく少ない。企業側は価値観やコンセプトで話をしてほしいのに、Facebookでは知人を超えたコミュニケーションが起こりづらい。

これは海外でも同じ状況なのでしょうか。

 いっしょです。声を大にして言いたいところですが米国をまねろ、というのはシステム優位なころはそうだった。シリコンバレーの情報はとにかく早い。システムについては絶えず新しいものが出てくるので、昔はタイムマシン経営ができた。だが、ソーシャルネットワークの利用に関しては、そんなことはない。実際、多くの企業のソーシャルメディア構築に携わっているが、ワールドワイドのコンペでもうちは負けていない。

 採択される理由は“きめ細かさ”なんです。どういうことかというと、ソーシャルメディアを使うということは、人と人の心の問題、コミュニケーションを扱うことになる。もちろん、米国と日本のコミュニケーションのスタイルは違うということはありますが、最近米国が日本に近づいているように感じている。例えば契約。米国では人種も宗教も価値観も違うといった同質性が乏しいことを前提として契約書が作られている。そのため契約書は一般的に膨大な量になる。一方日本の契約書ってすごく短いんです。

 「お互いそれはそうだよね、という不文律に従って判断するべき」といった主旨の一文が入る。それで契約書はすごく短い。以前これは日本の契約の後進性だと言われていたが、今は米国が日本に近づいている。ビジネスのスピードが速くなって「全部は詰め切れないから、どこかお互い共通認識はあったよね」ということで短くなる傾向にある。

 Facebookはそもそも今付き合っている人はいるか、恋愛対象は誰か、というのをオープンにするリストというのが下地。米国のコミュニケーションスタイルが正解ではないし、それを日本が真似をすることが必ずしも正しくない。ことコミュニケーションということになると、例えば和歌で心の機微をやりとりしていたように、こちらもこちらで歴史がある。

Facebookの利用ではよく「オープンになれ」といったことや、「透明性」といったキーワードが挙げられる。

 コミュニティは心の機微が大事で、「オープンにしてください」といってもオープンにならない。3週間ほど時間をとって安心できる場所を作っていく。「この空間はほんとに私の声を求めてくれているんだ」ということが分かると人はだんだん心を開いてくる。本音が出る。これを「修学旅行の夜」って呼んでますけど、みんなで場にコミットしてオープンになっていく。こういう心の機微を理解してみんなが本音を出せる空間を作っていく手法に、オンライングループインタビューというものがある。一方、Facebookは「オープンになればいいじゃない」というメディア。