急増が続くモバイルトラフィックをどうさばいていくか、モバイル通信事業者各社が頭を痛めている。割り当てられた周波数が少ない中でiPhoneを提供しているソフトバンクモバイルは、とりわけ厳しい状況にある。SoftBank 4Gなど新たな取り組みを見せる同社の、現状と今後の方針を、宮川CTOに聞いた。

宮川 潤一(みやがわ・じゅんいち)氏
写真:新関 雅士

モバイル全体を見わたして、直近の課題は何か。

 やはり今はトラフィック対策だろう。2010年から続いていることだが、とにかくiPhoneに始まってiPhoneに終わるというくらい、iPhoneのおかげで色々なことが変わってきている。トラフィックの急増もその一つ。全体としてみたときには1年で2倍程度と言っているが、最近は地域によってかなり偏りが出てきている。増え方が激しいところでは3倍近く増えてしまう。

 当然、エリア内で電波が不足してつながりにくくなる。そこでトラフィック対策としてセルスプリット、つまり基地局のカバー範囲であるセルを小さくし、基地局を数多く設置してきた。だが、それがもう限界に近づいている。

 実は第3世代(3G)移動通信では、一つの基地局の50メートルくらい先に隣のセルが来ているようなケースもあって、これ以上のセルスプリットは、正直なところ難しい。

 一番効果的な対策は新しい周波数をもらうことだが、ないものねだりをしても仕方がない。だから今は、屋内で発生するトラフィックをできるだけ携帯電話以外のネットワークに通す、いわゆるオフロードを進めている。当社が積極的に展開している無線LAN(Wi-Fi)がその一つだ。ほかにも、以前屋内エリア対策として設置したリピーターも、フェムトセルのような小さな基地局に置き換えている。これをできるだけ積み上げることで、なんとかトラフィックをさばいている。

オフロードの効果は定量的に見えているのか。

 もちろん。そのエリアの中のキャパシティーのうちどの程度のトラフィックをオフロードしたか、その数値は毎日記録して分析している。半分とまではいかないが、ある程度の成果は得られている。

 無線LAN、フェムトセルのほかに、1.5GHz帯の電波へのオフロードも進めている。といっても、iPhoneなどはグローバルバンドでない1.5GHz帯には使えないから、それ以外のユーザーの移行を促している。Pocket Wi-Fiもその一環だ。

 1.5GHz帯のエリアを少しでも充実させるために、一部では1.5GHz帯で受けてWi-Fiに変換して通信させるというイレギュラーなことまでやっている。そうしてでも1.5GHz帯にトラフィックをオフロードしたい。ここまで色々組み合わせて、なんとかキャパシティーを保っている。

トラフィックのオフロードで、どの程度まで対応できると考えているか。オフロードにも限界はあると思うが。

宮川 潤一(みやがわ・じゅんいち)氏
写真:新関 雅士

 正直なところ、分からない。端末がいったいどのくらいのトラフィックを生み続けるのか、今の段階では見えないからだ。

 新しい端末が出るタイミングと、その端末の振る舞い(ビヘイビア)を考えて、トラフィックの伸びを推測してはいる。その範囲では、諸々のオフロード策を駆使すれば、今後何年かはなんとか収容していける計算だ。

 ただ実際に2~3年先のトラフィックがどうなるかは全く分からない。少なくとも2の2乗的なペースでの増え方にはなるだろう。今まで持っていた携帯電話機をスマートフォンにするだけで生まれてしまうビヘイビアがあって、それが生み出すトラフィックを吸収できるのか、ギリギリの戦いだ。

ソフトバンクモバイル 取締役専務執行役員 兼 CTO
宮川 潤一(みやかわ・じゅんいち)氏
1965年生まれ。1991年12月、ももたろうインターネット代表取締役社長。2000年6月、名古屋めたりっく通信代表取締役社長、2001年10月にビービー・テクノロジー(現ソフトバンクBB)の社長室長に就任。2004年9月にBBモバイル取締役、同12月にソフトバンクBB常務取締役、2005年4月に日本テレコム(現ソフトバンクテレコム)取締役専務執行役、2006年4月にボーダフォン(現ソフトバンクモバイル)取締役専務執行役 技術統括本部長(CTO)に就任。Wireless City Planning取締役COOも務める。

(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2011年10月26日)