過去に何度もシステム障害を引き起こした楽天証券。金融庁から三度にわたる行政処分を受けた経験を糧に、新たな障害など不測の事態に直面してもサービスを長時間止めないシステムの運営体制を構築した。その陣頭指揮を執った楠雄治社長に、システム障害がなぜ何度も発生したのか、サービス停止を防ぐためにどんな施策を打ったのかを聞いた。

楠 雄治氏
写真:都築 雅人

まずネット証券ビジネスの現状を聞かせてください。

 この5年間、株式市場は右肩下がりです。2005年の「郵政選挙」で株式相場が盛り上がりました。しかし、2006年の「ライブドア・ショック」以降、リーマン・ショックもあり、最近では欧州が危機的状況になってきました。

 ネット証券は証券業のチャネル革新であり、安い手数料で多数の投資家を集めることでビジネスが成り立ちました。ただ肝心の市場が縮小すると収益も縮小してしまいます。各社ともこの数年間、FX(外国為替証拠金取引)や海外展開など、次の成長分野をどう育てるのかについて試行錯誤を重ねてきましたが、減収減益のトンネルから脱しきれていません。

大相場で運営体制が一気に瓦解

最初のシステム障害は2005年ですから、株式相場がピークのときですね。

 まさにピークのときに問題が顕在化しました。情報システムは大規模になり複雑化してくると、品質を上げたりシンプルにしたりすることは簡単ではありません。そんなシステムを引きずっていたら、また障害が発生し、結局三度にわたる行政処分を受けてしまいました。じくじたる思いです。

経営から見て、何が問題だったと考えていますか。

 2005年の最初の障害の原因は、郵政選挙以降の市場の盛り上がりで、取引量が急増したことです。キャパシティーコントロールが全くできていなかったのです。データベースサーバーの稼働率が100%に達するような状況で増強もままならず、システムが不安定になって停止してしまいました。

楠 雄治氏
写真:都築 雅人

 当社は1999年の設立以来、収益を上げるためにいろいろな取り組みを行ってきました。しかし、急激な相場変動を想定した運営体制を確立できていませんでした。そこに大相場が来て、一気に瓦解してしまったわけです。その結果、最初の行政処分を受けました。

 二度めの行政処分は2007年です。設立当初から作ってきたアプリケーションの品質が問題でした。障害を未然に防止するための品質管理や運営管理ができていないという状況が明らかになってしまったのです。

 三度めは、2008年11月にデータベース障害でダウンしたことによるものです。製品のバグにより、半日もシステムを止めてしまいました。要は、コンティンジェンシープランが不十分だった。バグなどの問題が起こることを想定した上で、速やかにリカバリーできる体制を組めていませんでした。

これだけ障害が頻発した根本的な原因は何ですか。

 競合他社だと、大手システム会社に一括で開発や運用を任せ、自分たちは要件を詰めたり、サービス面に注力したりするスタイルが多いと思います。一方、我々は必要な機能ごとに自分たちで直接ITベンダーをマネジメントして開発してきました。その結果、システムの運営や管理も自分たちでやってきました。

 システムがある程度の規模になったとき、システムを安定的に運営、管理する体制が当社に全く不足していたことが露呈したわけです。人、組織、そしてノウハウが不十分だったと言わざるを得ません。その弊害が2005年に出てしまった。そこから品質管理体制をつくっていったのですが、2005年までに出来上がった仕組みが前提にあったため、改善過程においても問題が起きてしまったというのが実情です。

障害発生時の対処が重要

これらの障害は全くの想定外だったわけですか。

楠 雄治氏
写真:都築 雅人

 実際、その通りです。ですから、三度めの処分を受けたときには、コンティンジェンシープランを根本的に見直しました。まず過去の障害事象を全部ひも解いて類型化し、打つべき対策もまとめました。過去の事象と同じ障害は想定内のものとしたわけです。

 問題は、今まで起こっていない障害に対するコンティンジェンシープランです。起こり得る障害については、ある程度想定しておけるのですが、具体的にどういう事象が起こるかが分からないものもあります。ですから「原因究明より先に元の状態に戻してサービスを継続できるようにする」といった、巨視的な観点からプランをつくることを意識しました。

楽天証券 代表取締役社長
楠 雄治(くすのき・ゆうじ)氏
1986年に広島大学文学部卒業。同年4月に日本ディジタルイクイップメント(現日本ヒューレット・パッカード)入社。AI(人口知能)や金融機関担当のシステムエンジニア。96年にシカゴ大学ビジネススクールにてMBA取得。99年にDLJディレクトSFG証券(現楽天証券)入社。2006年2月に取締役執行役員マーケティング本部長、06年4月に代表取締役執行役員業務執行最高責任者(COO)、06年10月より現職。1962年11月生まれの48歳。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)