RAIDカード大手の旧Adaptecは2010年6月、半導体ベンダーの米PMC-Sierraに買収された。買収から9カ月後の2011年3月には、自社(米PMC-Sierra)の6Gビット/秒SASチップを搭載した初めてのRAIDカード「Series 6」を出荷した。ITproは2011年12月7日、旧Adaptecの部隊で米PMC-Sierraのチャネルストレージ事業部を統括するVPに、旧Adaptecの現状とRAIDの動向を聞いた。

(聞き手は日川 佳三=ITpro


旧Adaptec製品に対する買収の影響は

米PMC-SierraでChannel Storage Division部門のVPおよびGMを務めるJared Peters氏
米PMC-SierraでChannel Storage Division部門のVPおよびGMを務めるJared Peters氏

 RAIDカードベンダーの米Adaptecは2010年6月、半導体ベンダーの米PMC-Sierraに買収された。米PMC-Sierraが自社に取り入れた旧Adaptecの組織は、そのままストレージ関連のチャネルビジネスの事業部となった。

 この買収によって、旧AdaptecはSASチップを手中に収めた。ブランド力のある旧AdaptecのRAIDコード(プログラム)を、よい形で存続させることができた。

 旧Adaptecでは元々、米Intelの半導体チップを使っていた。ところが、米IntelのSASチップには、6Gビット/秒のロードマップが無かった。このため、米Intelに代わる供給元を探していたところだった。米PMC-SierraのSASチップはOEM(相手先ブランドによる生産)をメインに、全世界の6割を占める。

 買収後わずか9カ月の2011年3月に、米PMC-SierraのSASチップ(6Gビット/秒)を搭載したRAIDカード「Series 6」を出荷した。その後、需要に合わせてSeries 6を拡充し、2011年7月に「Series 6E」を出荷。2011年10月には新製品として「Series 6T」と「Series 6Q」を発表した。これらは2011年12月中に出荷する。

RAID製品に対する需要の変化は

 技術トレンドは、3Gビット/秒から6Gビット/秒に移り変わっている途中だ。米PMC-Sierraでも、3Gビット/秒の旧製品に加えて6Gビット/秒のSeries 6を出荷している。機能面では、SSD(Solid State Drive)をRAIDアレイのキャッシュとして利用する形態や、チップにデータ暗号化機能を組み込む工夫がある。

 RAID製品の企画には顧客層の分布が関係してくるが、これにもトレンドがある。RAIDカードを搭載する対象となるPCサーバーの出荷量において、企業内の伝統的な情報システム向けの出荷量は横ばいが続いているのに対して、米Microsoftなど一部の巨大企業(メガサイト)やパブリッククラウド事業者に向けた出荷量が伸びている。

 伝統的な情報システムとクラウドとでは、RAIDカードに求めている要素が異なる。例えば、伝統的な情報システムは、データの冗長性をRAIDカードに担わせる。このため、豊富なRAIDレベルを必要とする。一方、クラウドでは、冗長性はサーバー単位やラック単位、場合によってはサイト(拠点)単位で担保し、RAIDには性能だけを要求する傾向にある。

 ディスクアクセス性能に対する要求も、伝統的な情報システムとクラウドとでは異なる。伝統的な情報システムでは、IOPS(1秒当たりのディスクI/Oの数)やデータ転送帯域を気にする。つまり、速いことを望む。一方で、クラウドでは、まず何よりもレイテンシ(遅延時間)が低いことを要求する。反応が遅くならないことを望んでいる。

 こうした要求の違いを組み上げて、個々の製品企画へとつなげている。

米PMC-Sierraのチップを搭載した新シリーズの概要は

 2011年3月に出荷したSeries 6では、停電時にキャッシュのデータを保持するためのバッテリー(キャパシタ)をオプション扱いとした。以前のRAIDカードでは、キャパシタを搭載するカードと搭載しないカードが別製品として分かれていた。これを改め、オプション扱いにした。必要であれば後から追加できる。

 2011年7月に出荷した「Series 6E」は、中小企業やクラウド基盤などに適したエントリー製品だ。機能面では、RAIDレベルを0/1(ストライピングとミラーリング)だけに限り、キャッシュ容量も128Mバイトに抑えている。RAIDカード当たりの搭載ディスク数が少ないケースに向く。カードの形状も、集積度を上げたサーバー環境に合うようにカードの全長を短くしたほか、PCI Expressのスロット形状を、最も小さい「x1」にした。

 2011年12月に出荷する新製品の「Series 6T」も、サーバーの集積度を意識した製品だ。機能面ではフル機能を備えているが、形状については、集積度を高めたサーバー機に合わせて、内部コネクタの位置を変えている。具体的には、コネクタをカードに対して水平方向ではなく垂直方向に設置した。PCケース内の長さが足りない場面で、コネクタとケーブルが邪魔にならない。

 もう一つの新製品「Series 6Q」は、ハードディスクに加えてSSDを搭載することでRAIDアレイを高速化する機能(旧称は「MaxIQ」)の最新版「maxCache 2.0」を搭載している。これまでのMaxIQは、リードキャッシュ専用だった。頻ぱんにアクセスするデータをハードディスクからSSDにコピーすることにより、データがSSD上にある確率(ヒット率)を高めていた。今回の新版では、リードキャッシュに加えてライトキャッシュとしてもSSDを活用できるようにした。