自社のITを、どうビジネスの価値に直結させるか。このテーマに悩まないCIOやIT部門のマネジャーはいないはずだ。今、「ITの整備をビジネス価値に直結させる」ことを主眼に置いた、新しいフレームワークが日本に上陸しようとしている。IT能力成熟度フレームワーク(IT-CMF:IT Capability Maturity Framework)がそれだ。

 IT-CMFでは、企業におけるITの利活用の度合いを、大きく5段階の成熟度として計測する。IT-CMFを使えば、自社のIT部門の活動が、ビジネス上の成果につながっているかどうか、その目安が見えてくるという。もともとIT-CMFは米インテルが自社内で作成したフレームワークで、今はアイルランド国立大学メイヌース校内の研究組織であるIVI(イノベーション・バリュー・インスティチュート)が権利を持ち、普及活動を進めている。

 IT-CMFは2010年にV1.0をリリース。すでに200人以上のCIOやITマネジャーに評価を受けている。日本でもNTTデータが顧客企業のコンサルティングに使うことを想定して評価中という。

 IT-CMFの概要や効果、今後の展開について、IT-CMFのキーパーソンであるアイルランド国立大学メイヌース校 IVI テクノロジーリーダーのマーティン・ディレニー氏と、インテルラボ・ヨーロッパ ITイノベーションのジム・ケネリー氏に聞いた。

(聞き手は高下 義弘=ITpro

IT-CMF(IT能力成熟度フレームワーク)とは何ですか。

写真●アイルランド国立大学メイヌース校 IVIのマーティン・ディレニー氏(右)と、インテルラボ・ヨーロッパのジム・ケネリー氏
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マーティン・ディレニー氏:企業におけるITの利活用度合いの成熟度を測るフレームワークです。利活用の度合いは大きく5段階の成熟度として示されます。また、それぞれの成熟度ごとに適した改善のプロセスも提示しているのが特徴です。

 IT-CMFでは4つの分野、30個以上の細項目でプロセスを規定しています。ユーザー企業はIT-CMFの質問内容に答えていくと、それぞれの分野、細項目において、自社のITおよびIT部門がどんな状態にあるかという成熟度が算出できます。細項目としては、例えばソーシングやリスクマネジメント、予算管理、人材管理、サプライヤーのマネジメント、TCO(総所有コスト)などがあります。

 IT-CMFの狙いは、ITとビジネスの溝を埋めることです。IT-CMFで用意した成熟度の測り方はもちろん、IT-CMFで示している改善のプロセスは、企業のIT部門の活動が、ビジネス上の価値につながるように整理してあります。

 CIOやIT部門のマネジャーは常に、ビジネス価値を高めるためにITをマネジメントすべきですが、それぞれの企業の状態、つまり成熟度の度合いにおいて、手を付けるべきことは異なります。IT-CMFは「どんな状況の時には、どんな点に着目すべきか」を示す羅針盤となるよう仕上げています。

 2010年にIT-CMFのV1.0をリリースしました。すでに200人以上のITエグゼクティブに評価を受けている、実績のあるものです。IT-CMFで、ビジネス価値につながるITの整備に貢献したいと考えています。

具体的にはどう使うのですか。

ディレニー氏:まずはアセスメントです。IT-CMFでは、CIOやITマネジャーを対象にしたアンケートを用意しています。このアンケートや、IT-CMFのアセッサー(調査員)によるヒヤリングなどを通じて、5段階の成熟度を算出します。

 次にワークショップを通じて深掘りします。IT-CMFのアセッサーとユーザーでワークショップを開き、成熟度に応じた改善案を考えていきます。IT-CMFでは、世界中の企業から集めたベストプラクティスを集めています。例えば1から2に成熟度をアップさせるための事例とか、3から4にアップさせるための事例があります。こうした事例をベースにしながら具体的なアクションプランを考えます。

ベストプラクティスにはどんなものがありますか。

ジム・ケネリー氏:多くのベストプラクティスをそろえていますが、例えば投資対効果の測定基準については10個以上の基準を用意しています。システムの種類によって適切な測り方があります。IT-CMFを活用すれば、どんな場合にどのような測定基準を使えばよいか分かります。

 もともとIT-CMFは、インテルが社内のITを高度化するために作ったものです。発案者であるマーティン・カーリー氏は、インテルラボ・ヨーロッパの代表(Director)であり、私の上司です。IVIには共同代表として兼務しています。当時カーリー氏は「自社のITを、もっとインテルのビジネスに貢献させるにはどうすべきか」という問題意識を持っており、その問題意識をもとに開発したものです。