米Hewlett-Packardは、製品開発や企業買収を通じて、ソフトウエア事業を拡充させている。直近の2011年11月29日(オーストリア、ウィーン現地時間)には、ITシステムの重要な監視情報を数値化して把握できるようにするソフト「HP IT Executive Scorecard」が監視の対象とするKPI(重要業績評価指標)の種類と数を拡大することを発表した。これまでのCIO向けのKPIに加えて運用責任者向けと開発責任者向けを追加し、より広範な視野でITを俯瞰できるようにする。ITproは2011年11月29日、日本ヒューレット・パッカードでソフトウェア事業を統括する中川いち朗氏に、同社ソフトウエア事業の全体像と、IT管理ソフトのトレンドを聞いた。

(聞き手は日川 佳三=ITpro


HPが現在扱っているソフトウエア製品の全体像は。

日本ヒューレット・パッカード、執行役員、HPソフトウェア事業統括の中川いち朗氏
写真1●日本ヒューレット・パッカード、執行役員、HPソフトウェア事業統括の中川いち朗氏

 運用管理ツール群(旧OpenView製品群)とソフトウエア開発工程のツール群(Mercury製品群)を中核としながら、企業向けセキュリティ製品(米ArcSight/米Fortify Software/米TippingPoint Technologies)や経営層向けの情報可視化ソフトを追加してきた。企業買収や製品開発などを経てソフトウエアを拡充しつつ、セキュリティ事業部門の創設やコンサルサービスの強化なども図っている。

 ソフトウエアのポートフォリオを広く揃えている意味、そして我々がやりたいこととは、こうだ。まずは、ITシステム全体を俯瞰して、「運用がどう効率化されているか」や「システムのリソース全体が最適に運用されているか」を知る。この上で、足りない機能を補うなどして、IT運用を最適化する。このために必要となる製品群を揃えている。

 IT運用プロセスを最適化するには、運用の全体像を俯瞰できることが前提となる。これをビジュアル化した製品が、2011年9月29日に出荷した「HP IT Executive Scorecard」だ。これを提供する以前は、「運用を全体最適化しましょう」とお願いすることしかできなかった。一方、IT Executive Scorecardを使えば、全体最適しているかどうかが、目の前で分かるようになった。

写真2●日本HPのソフトウエア事業部門が取り扱う全製品(IT Performance Suite)の体系
[画像のクリックで拡大表示]

 IT Executive Scorecardは、CIO(最高情報責任者)などの経営層/責任者に向けた情報可視化製品であり、キーとなるのは、米Hewlett-Packardのベストプラクティスを盛り込んだKPI(重要業績評価指標)だ。これを使うことで、現在のITシステムの状況を数値化して、具体的に把握できるようになる。

 今回、ITシステム全体を俯瞰するというCIO向けの製品をポートフォリオに追加したことで、「全体を俯瞰して運用プロセスを最適化する」という、もともとIT運用製品群が持っていたコンセプトをまとめ上げたかたちだ。この意味で、IT Executive Scorecardだけでなく、運用ソフトウエアの全体を「IT Performance Suite」と呼んでいる(写真2)。

IT Executive Scorecardの詳細は。

 IT Executive Scorecardは、「CIOのポジションを向上させたい」という思いが込められた製品だ。これまでのCIOは、経営者やユーザー部門から要望を受けてからリアクティブに行動を起こすことが多かったが、これだけITがビジネスと密接になってくると、様相が変わってくる。IT責任者としては、IT環境を正しく把握した上で、エンドユーザーや経営者などに対してプロアクティブに提案をしていかなければならない。

 CIOが関係するステークホルダーは、大きく四つある。一つは自部門(情報システム部門)だ。ITリソースを最適化する必要がある。二つめは、外部ベンダーだ。SIベンダーやアウトソーシング先というブラックボックスをどう紐解くかが問われる。三つめは、エンドユーザーだ。ユーザー満足度を把握する必要がある。四つめは、経営者だ。投資への説明責任がある。

 これらをすべて実現するためには、ITシステム全体を俯瞰して数値化できること、日々PDCAを回せること、などが必要になる。このためには、ITの運用品質やユーザー満足度、投資の成果などをKPIとして示すことが有効になる。IT Executive Scorecardでは実際に、これらのKPIを用意している。

 CIOと話をすると、KPIの作成にすごく時間をかけていることが分かる。しかし、「KPIに基づいて調査した結果、こうでした」という結果の報告で終わっていて、そこから手を打つことができていない。さらに、トップダウンではなくボトムアップで取り組んでいるような場合には、データが不足して必要な情報が集まらないことも多い。

写真3●CIOの用途に合わせてプリセットした48個のKPI
[画像のクリックで拡大表示]

 米Hewlett-Packardがユーザー企業をサーベイした結果、企業を経営していくのに必要なKPIは170超ほどあることが分かった。この中で、ITシステム(HPのソフトウエア群)から情報を収集できるKPIは150くらいある。IT Executive Scorecardでは、この中からCIOにとって必須となる48個のKPIを選んでプリセットしている(写真3)。例えば、「計画通りの期間で完了したプロジェクトの割合(%)」「SLA遵守率(%)」「プロジェクトの計画コストに対する実績コストの割合(%)」などだ。

 KPIごとの監視項目は、現在のITシステムの状況から、ほぼリアルタイムにデータを集めている。これによって、日々、PDC(計画、実行、チェック)だけでなくAction(改善)を起こすことができる。

IT Executive Scorecardの今後の展開は。

 KPIの対象を広げる。150個あるKPIの組み合わせを変えて、CIO向けよりもシステム寄りに振ったKPIとして、運用責任者向けのKPI(71個)と、開発責任者向けのKPI(57個)を備えたバージョンを追加する。このように、利用者の用途に合わせたKPIを提供する。これらのバージョンは、2011年11月29日(オーストリア、ウィーン現地時間)に米Hewlett-Packardが発表したばかりの製品だ。出荷は2012年春を予定している。