三つのポートフォリオを変革
今後の成長路線のポイントを話してください。
構造改革が続くと言ったほうがぴったりくるのですが、暗いイメージが残りますので、これからは成長路線だと言っています。
ポイントは三つあって、一つは自分たちの産業のポートフォリオを変えることです。そのために技術のポートフォリオも変えます。これが二つめ。韓国や中国のメーカーには製造コストで勝てませんから、技術で勝つしかない。必要なら外部の技術も買います。
三つめは、地域のポートフォリオを変えることです。今、売り上げの6割が国内ですが、これでは駄目です。これから伸びるのは中国、インド、ASEAN諸国。日欧米に軸足を置く経営はあり得ません。人材も6割を海外で採用して、場合によっては中国ビジネスのトップをオランダ人に任せることもあるかもしれません。
自前技術にこだわる日本企業は多いですが、核心的な技術の外部調達もあり得るのですか。
もちろんです。私から言わせると、自前へのこだわりはNIH症候群です。「Not Invented Here」、つまり外の技術を嫌っているだけです。でもナイロン、ポリエステルはデュポンやICIが生み出したものです。炭素繊維は日本が強いと言っても、もとは米国企業が手がけていました。日本企業は本来、自前主義ではなかったのです。
私は医薬医療事業を長く担当してきましたが、研究者には1000億円かけて自分で研究しても、よそから買ってきても、君の研究成果だよと言っていました。なぜなら、製品を出してどれだけ稼ぐかが最終的な評価になるわけで、自前かどうかは、経営から見るとどちらでもよいからです。
本社や研究開発機能を海外へ移すことも検討しますか。
個々の事業はともかく、トータルなマネジメントは日本企業としての歴史がありますから、日本で行うべきです。CSR(企業の社会的責任)の観点からも、雇用と税金は国内に残すべきです。
研究開発面では、例えば防弾チョッキなどに使うアラミドファイバーの事業はオランダが本部ですから、オランダにはアラミドの研究開発体制が整っています。一方、ポリエステル繊維は日本発ですから、少なくとも今は日本に研究所があります。先端技術の研究所も基本的に日本です。
ただし、企業は資本の増殖を求めなければいけません。中国などで日本並みの研究ができるようになれば、人件費が安く競争力のあるところに移ることがあるかもしれません。ただ、それは長期的なポートフォリオ変革のなかで考えていくべき課題です。
人や組織に「栄養」を送るITを
構造改革や成長路線を推進するうえで、CIO経験者としてITに求めるものは何ですか。
実はCIOになったとき、「インフォメーション」について基本的なところから考えました。きちっと理解していかないと、CIOという仕事に満足できないと考えたからです。そのときに思ったのは、ITは企業の神経系ですが、血管系とでもいえる、もう一つのとらえ方があるのではないかということです。人体なら栄養や酸素を各器官に届けるという機能があります。ITにも必ずこの要素があるはずだと思ったのです。
神経系としてのITは、オペレーショナルなシステムですよね。一方、血管系は豊かな発想などを生み出すために情報という栄養を送るネットワークのイメージです。例えばイントラネットや経営コックピットなどです。
経営を助けるITだけでなく、ビジネスとしてのITも考えられます。医療やヘルスケアでしたら、在宅の患者をサポートするような付加価値の高い情報を、携帯電話を通じて送り届けるような仕組みです。そして私は、帝人グループとしてこうしたITをグローバルで推進していく必要があると思っています。
そうしたことを踏まえると、何がIT部門の課題ですか。
オペレーショナルなITは誰でもできます。問題は血管系のIT。企画マインドを持ち事業を理解して、IT化にまで持ち込める人材をどう育てるかですね。
一つの試みとして、CIOの下にIT企画室を設けて、そこに20人くらいを配置しています。各事業からの選出チームです。一時期はITシステム子会社のインフォコムに全部切り出したのですが、その反省のうえでの取り組みです。
大八木 成男(おおやぎ・しげお)氏
(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)