帝人の大八木成男社長はCIO(最高情報責任者)経験者だ。その大八木社長が構造改革に取り組んだ際、経営判断のための情報インフラの必要性を痛感したという。帝人は2年間の構造改革を終え今期から成長路線を走り始めた。真のグローバル企業へ向けて継続的な変革を推し進める大八木社長に、事業戦略とそれを支えるITの役割について聞いた。
成長路線を取り戻すために、思い切った構造改革に取り組まれたそうですね。
私が社長になったのは2008年6月ですが、奇妙な現象が起きていました。原油が150ドル近くまですっと上がったのです。このまま原油が上がり続けると相当きついことになる。そう思っていたら、需要が突然消えました。リーマン・ショックです。もう赤字転落は必定です。
そこで私は、構造改革に取り組む決意を固めました。損益分岐点を下げて、操業率が75%でも黒字にできるようにしようとしたのです。この構造改革は、2011年3月までの2年計画でやり遂げることにしました。その過程で国内の最大工場を閉じたり、グローバルで数千人規模の人員を削減したりもしました。
そして構造改革が一通り終わったとき、今度は天が味方をしてくれました。景気が少し戻ってきたことで、予想以上の収益を取れるようになったのです。10年間赤字が続いたポリエステル繊維事業も黒字に転換しました。
必要なデータがそろわない
構造改革の際に浮き彫りになった課題は何ですか。
構造改革のためには、どの費用に焦点を当てて改革に取り組んだら黒字転換するのかを知る必要があります。ところが、人件費はグローバルでいくらかとか、販管費のうち何が一番大きいのかなどを調べようとすると、データが無いのですよ。日本国内はともかく、グローバルではすぐには分からなかったのです。
オランダには帝人がM&A(合併・買収)した事業がありますが、必要なデータはExcelで計算しなければならなかった。資料によって従業員数が200~300人ずれたりもしました。グローバルベースで人、モノ、カネに関する情報がまとまっていることは構造改革の大前提ですが、そろえるのに1カ月かかりました。
CIOのときに手を打っておけば、そんな苦労をしないですんだかもしれません。
その通りです。ただグローバル化の段階で言うと、我々はセカンドステージにいます。輸出を中心に海外展開するのがファーストステージなら、セカンドステージは各国に現地法人をつくり、マルチナショナルに展開する段階です。マルチナショナルに展開しながら本社が情報を一元的に握るのがサードステージですが、まだそこに達していません。
セカンドステージでは、現地法人はすべて自前で事業運営しています。ですからCIOが、システム統合を言い出したところで、誰も戦略性を感じないわけです。帝人も含め、それが今の日本企業の大方の姿だと思います。
ただ今や、グローバルな構造改革を経験してみて、サードステージに行かないと駄目だということを痛感しました。瞬時に世界中の状況が見えていないと、これからは経営判断が間に合わない可能性があるからです。
そうすると、情報システムなどの経営インフラの整備が課題になりますね。
今、準備をしています。当然、グローバル全体が見えていないといけませんから、すべてを「統一言語」で理解できるようにしないといけません。ERP(統合基幹業務システム)にしても、様々なものを使っていましたが、すべてを統一していきます。
この前、会計システムはSAPで統一しました。IFRS(国際会計基準)対応を契機として統一させたのです。グローバルの共通ベースが整ったとはまだ言えませんが、順次整いつつあります。
大八木 成男(おおやぎ・しげお)氏
(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)