日本では、ソフトウエア開発におけるテストの自動化があまり進んでいない。日経SYSTEMSが2011年2月から3月にかけて実施した調査では、テストツールの利用率は3割にも満たなかった。このほど来日した英Micro Focusのテストツールの製品責任者、Joachim Herschmann氏(Product Director Test Automation、写真)に、海外市場の動向やテスト自動化の課題、同社の製品戦略を聞いた。

(聞き手は森重 和春=日経SYSTEMS)

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写真●英Micro FocusのJoachim Herschmann氏

日本ではソフトウエア開発におけるテストツールの利用率が低い。なぜだと思うか。

 確かに、欧米の企業に比べると日本ではテストツールを用いた自動化があまり浸透していない。これは、これまでの積み重ねの違いによるところが大きいだろう。欧米では、20年以上前からテストの自動化に取り組んできた歴史がある。その間、試行錯誤を繰り返してきた。ツールも同様に進化してきた。

 日本の企業がこれからテストの自動化を進めるときには、欧米の企業が体験してきたことを生かせるというメリットがある。我々はツールベンダーとして、そうした成功体験を日本のユーザーに伝えていく。

テストの自動化にはコストがかかりすぎるという声もある。

 ツールを短期間しか使わないなら、自動化の効果は出せないかもしれない。しかし、アプリケーションは一度開発して終わりではなく、改修を繰り返す。そのときの繰り返しテストに適用すれば、費用対効果は十分にある。

 そもそも、自動化によるコスト効果をどう捉えるのかが問題だ。自動化で減らせるのはテスト工数だけではない。自動化による確実なテストによってシステム障害のリスクを抑え、システムを信頼して利用できる。つまり、ビジネス上の損害リスクを軽減できることも、自動化の費用対効果として考慮すべきだろう。

 実際、テスト自動化の効果は大きい。例えば、テレコミュニケーションのソリューションを開発、提供しているカナダのMITELでは、ソフトウエアと電話のヘッドセット、言語などの組み合わせが数万通りにも上り、そのテストに膨大な工数がかかっていた。当社のテストツール「SilkTest」を用いて自動化することで、主要なソリューションのテストを12週間から2週間へ、約8割短縮した。ソリューションの信頼性が飛躍的に向上し、新しいソリューションの市場投入も早めることができている。

コスト以外に、テスト自動化の難しさはどこにあるのか。

 まず技術的な面から言うと、幅広いテクノロジーをサポートするツールを見つけることがポイントだ。企業の情報システムでは、新しいテクノロジーの導入には時間がかかる。そのためテストの自動化に当たっては、古いテクノロジーと新しいテクノロジーの両方をサポートするツールを使う必要がある。

 もう一つは、組織の問題だ。テストには、さまざまな役割を持つ担当者が、それぞれの専門領域で関わる必要がある。業務を熟知したビジネスアナリストや手動のテスター、あるいは品質管理担当者、アーキテクト、開発者などだ。しかし、関連する部門の協力を得られず、直接テストを担当する部門だけが孤立してテストを実施していることがある。これを改める必要がある。

それらの課題に対して、どのような製品を提供していくのか。

 まず、幅広いテクノロジーをサポートしていくことが必要不可欠だ。加えて、戦略的に重要なのは、テストに関係するすべての役割の担当者が、テストに参加しやすいツールを提供していくことだ。役割ごとに必要な機能を提供し、異なる役割を持った担当者間の共同作業を支援する。

 具体的には、テスト自動化に必要な役割を三つに分け、それぞれのレイヤーごとに必要な機能と、それらの集合体をサポートする機能を提供していく。

 ビジネスアナリスト向けには、業務のワークフローをユースケースとしてGUIで簡単に記述できる機能を提供する。品質管理担当者やアーキテクトなど、テスト設計を担当するユーザー向けに提供するのは、画面やその遷移など、アプリケーションのモデリングを支援する機能だ。テストの自動化そのものを担当するエンジニア向けには、IDE(統合開発環境)への対応など、自動化の実装を支援する機能を提供する。

日本での今後の販売戦略は。

 最初に述べた通り、日本では開発現場におけるテスト自動化はあまり進んでいない。ユーザーが自動化の効果を実感できるような情報や支援を提供し、ツールの導入を推進していく。