プログラミング言語Rubyの開発者であるまつもと ゆきひろ氏は2011年7月、米Salesforce.comが2010年12月に買収したRubyのPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)ベンダーであるHerokuのチーフアーキテクトに就任した(関連記事)。まつもと氏にSalesforce.comとの関係や、オープンソースと企業のかかわりなどを聞いた。

(聞き手は大谷 晃司、高橋 信頼=ITpro

米Salesforce.comの中で、どのようなことを求められているのでしょうか。

米HerokuのChief Architectに就任した まつもと ゆきひろ氏
米HerokuのChief Architectに就任した まつもと ゆきひろ氏

 正式な肩書きは「Chief Architect、Ruby」です。基本的には「Rubyの開発を支援したい」ということでポジションをいただいた形になります。Salesforce.comの一員であるため、同社の広報などでお手伝いすることがあればもちろんしますが、基本的にはRubyの開発を継続するというのがミッションであり、業務です。これまでの、ネットワーク応用通信研究所や楽天技術研究所のフェロー、Rubyアソシエーションの理事長といった仕事も従来通り続けていきます。

 Herokuとしても同じで、Herokuのスタッフといっしょに仕事をするという形ではありません。Herokuの支援でRubyのコア開発チームを編成したりということはあると思いますが、Herokuの業務について直接何かをするということではありません。ただ、Herokuはコア技術にRubyを採用しているので、それについて何かを助言することは今後あると思います。

9月にSalesforce.comのプライベートイベント「Dreamforce'11」が開催され、Herokuも話題に上りました。感想などを聞かせてください(関連記事1関連記事2)。

 一参加者として分かったことしかお伝えできませんが、Salesforceはずっとソフトウエアをサービスとして提供することをやってきました。そのなかで、顧客独自のアプリを作らなければならない、といったときのために登場してきたのがPaaSである「Force.com」だったり、「Database.com」(マルチテナント型のデータベースサービス基盤)だったりと認識しています。そのアプリをどんな言語で記述するかというとき、Rubyが第一候補になればRubyをホスティングするHerokuを使う、という絵をまずは描いているのではないかと理解しました。

 Salesforceには既に多くの出来合いの機能がある。それをカスタマイズするのであれば「Apex」(Force.com向けのプログラム開発のための独自言語)で開発した方がずっと早いと思います。ユーザーが最大限のフレキシビリティを発揮したい、例えばRuby on Rails(Rails)を使ってアプリケーションを組んで、Salesforceのデータベースにどんどんアクセスしたいというときは、HerokuとDatabase.comの組み合わせがよい局面がある。ユーザーの状況とニーズに合わせてベストなソリューションを提示できるように様々なメニューがある、ということだと思っています。

Herokuがサポートする開発言語も増えています。

 JavaScript(Node.js)、Clojure、Pythonもありますし、Scalaも加わりましたので、Ruby、Javaを合わせてサポートする言語は計6種類になります。HerokuはRubyからスタートしましたが、日本風に言うとマルチランゲージ環境を目指している。Javaのほうが都合がいいユーザーもいるし、Pythonのほうが都合のいい方もいる。多様性を提供することでユーザーが喜ぶような環境を定義できればと思っています。多言語をサポートするなかで、Rubyでやってきて評価を得たやり方を、ほかの言語にも提示したい。

Dreamforce'11では、「ソーシャルエンタープライズ」というメッセージが掲げられました。まつもとさんご自身はどのように受け止めましたか。

 企業というのは、例えばSalesforce.comで言えば、SFA、CRMから始まった企業ですが、そこを超えてどんどん事業を広げてきた。こうしたことは多くの企業で行われてきたことですよね。米Appleは元々はパソコンの会社でしたが、今はどちらかと言うと電話を作るほうがメインになっている。

 状況とテクノロジーの変化に適応していくなかで、マーク(・ベニオフ氏、米Salesforce.comのCEO)が選んだトレンドが企業におけるソーシャル。個人のソーシャルという意味ではFacebookやTwitterなどいろいろあり、実際そのパワーが見えてきた。企業独自のセキュアな状態のソーシャルというのがあったときに、その企業が生みだすパワーに注目したのだと思います。