大規模店舗のすき間に勝機
優れたIT活用事例を表彰するIT Japan Awardでは、個別特売チラシシステムが準グランプリを受賞しました。それも含め、情報システム全体ではどれくらい投資しているのですか。
2005年にレガシーを脱して、オープン系のシステムに切り替えました。店舗向けとしては現在、自動発注システム、会員向けポイントカード、そして顧客ごとに個別の特売チラシを発行する「ZFSP」などの導入が進んでいます。そして今、新商品を紹介するプログラムも、大手メーカー二十数社の参加を得て始めました。個別特売チラシの仕組みを利用して、顧客の購買履歴から、新商品に関心を持ちそうな人にクーポンを提供するものです。
これらのシステムは、旧システムをリプレースして新たにつくり上げましたから、総額で70億円も投入しました。当社の規模では異例のことだと思います。
本部で情報化を進め儲ける仕組みを整備するなかで、加盟店がやるべきことはありますか。
店頭での基本はハイタッチです。要するに顧客の心を離さないことが、最大の仕事です。例えば、スクリューキャップが開けられないご老人がいたとします。その人がスクリューキャップの付いた商品を買い、すぐに使うようなら、「じゃあ、おばあちゃん、キャップをちょっと緩めておいてあげるね」と声をかける。そういうことがハイタッチなのです。
一方、何を売るか、いくらで何個売るかといったことは、ある意味、データの世界の話ですから本部側で設計したほうがよい。店頭はハイタッチ、本部はハイテクと、私は言っています。両方がうまく重なると、ベストリテーラーになれるのだろうと思っています。
競合は大手スーパーですね。そうした取り組みで、大手に打ち勝てますか。
大手スーパーは、大きい分だけ商圏が広い。日本が高齢化していくなかで店舗を巨大化させ、規模の小さい店舗を減らしています。店数は減っているけど、売り場面積が増えているわけです。
これは顧客からみると、店舗が物理的に遠くなるということです。日本社会が若くて皆が自動車でまとめ買いに行けた頃なら、それでもよかったのですが、高齢者が増えてくると、買い物に行きたくても行けない人が増えてくる。そのギャップに勝機ありというのが、我々の見方です。
実は、顧客が自動車に乗らなくなって、徒歩や自転車で移動するようになると、スーパーの商圏は半径1kmから300mに縮小します。ポイントカードのデータから、地方と都市の店舗の商圏分析をすると簡単に分かりますよ。自動車での来店が中心の地方店舗だと半径1kmで売り上げの50%、徒歩や自転車中心の都市の店舗だと300mでやはり売り上げの50%を占めるのです。
ですから、イオンのような大規模な店舗ができればできるほど、商圏のすき間が多数生まれるでしょう。そのすき間を我々が埋めるわけです。大規模店舗へ行ける人がどんどん減って、我々の店舗で買い物をする顧客が増えてくる構造になるだろうと予想しています。
従来の発想からの脱却を
自動発注システムを導入した店舗は400店、ZFSPでは200店にとどまりますね。システムの導入促進が課題のようですが。
加盟店には、ZFSPを入れてください、自動発注をやってくださいと言い続けていますが、ハードルは高いですね。そうしたシステムを導入すると、自分たちの仕事がなくなってしまうという意識の加盟店が結構多いのです。
本来なら、発注作業をしている暇があるのだったら、もっと接客に時間を費やしたほうがよいし、もっときちんとしたPOP(店頭販促)を書いたほうがよいはずです。それでも時間が余っているのなら、配達してあげればいい。でも、店舗では依然、発注作業などが主たる仕事という発想から脱却できていません。
ですから、100人以上のスーパーバイザーで加盟店を口説いていますが、なかなか大変です。ただ、こうした格闘こそがボランタリーチェーンなのです。それを楽しめるぐらいでないと、経営はできません。
齋藤 充弘(さいとう・みつひろ)氏
(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)