ボランタリーチェーンの全日本食品は小型スーパーや個人商店1800店舗を組織化し、地域に根ざすこうした中小零細小売店の経営を支える。大手チェーンストアに対抗する武器は、「IT Japan Award」で準グランプリを受賞した個別特売チラシシステムなど、総額70億円を投じた情報システムだ。「情報武装すれば大手に負けない」と話す齋藤充弘社長に事業戦略を聞いた。
情報システムへの投資に積極的ですね。まず、その背景や狙いを聞かせてください。
実際に我々は、周りからあきれられるぐらい情報システムに力を入れています。その話の前に、少し小売業全般の話をします。
小売業では従来、教育を通じて店頭の効率化を図るのが基本的な手法でした。店頭での成功事例を本部が吸い上げて他店舗でも実践してもらう。つまりベストプラクティスを標準化したわけです。それにより店頭のレベルを引き上げていくのが小売業の歴史でした。
ところが、ウォルマートが現れ、こうした“人づくり”による標準化ではなく、システムによる標準化を持ち込みました。人件費を削り非常に効率的な店舗運営ができるようになった。その結果、人材教育を重視する小売業は駆逐されていきました。
実は、従来の手法には欠陥がありました。発注では過去の実績をよく見て注文を出しなさい、と言ったところで、どう発注するかというアルゴリズムはありません。データを統計処理して、その結果からある一定の幅の中で発注すれば間違いないといったアプローチは、人間の頭の中でやれと言ったところで不可能なわけです。
一方、ウォルマートは「きちんと発注しなさい」から「どう発注するか」というレベルに駆け上がりました。P&Gなどのメーカーと組んで、店頭データをメーカーに公開する代わりに商品をきちんと店頭に送り込ませる仕組みをつくりました。その結果、高い精度で発注できるようになった。サプライチェーンという先端的な考え方が、そこから出てきたわけです。
ウォルマートの歴史に活路
そうしたウォルマートの成功事例を参考にしたわけですか。
全日食チェーンに加盟する小売店は、中小零細の代表選手みたいな店舗が多いのです。そのため、ベストプラクティスを教育によって標準化していく手法を実践するのは、難しいのです。要するに加盟店は教育を嫌がる。本部で標準化しても、店頭に徹底することはなかなかできませんでした。
ただ、ウォルマートの発展の歴史を調べると、システム化すれば教育という手段を採らなくても、一挙に標準化を推進できる可能性がある。我々はそう考えて、システム化を推進してきたわけです。
一国一城の主が加盟するボランタリーチェーンでは、教育はそんなに難しいのですか。
できないのですよ。絶対にできない。一国一城の主を教育で標準化に巻き込んでいくのは、言うは易く行うは難しなのです。
ですから標準化するためには、システム化以外にあり得ないわけです。そして、この商品をいくらで販売するのか、なぜこんなに注文するのか、そんなアルゴリズムをつくることに本部が挑戦せざるを得なかったのです。
私はそれをマーケティングと表現しています。単なる自動化ではなく、アルゴリズムを自らつくる、つまりマーケティングができる組織に成長することが、全日食チェーンが生き残っていくための条件だと思っています。
それにしても、情報化やデータ活用について豊富な知見をお持ちですね。
正直言って、私自身がデータに立ち向かえるようになったのは、十数年前からでしょうか。いろんな人の話も聞きましたが、自分でもデータウエアハウスを調べて、成功した店舗とうまくいかない店舗では何が違うのかを分析しました。なぜなのだろう、なぜなのだろうと、自分なりにデータに立ち向かってきたのです。
今では専門の部署に20~30人の担当者がいますが、マーケティングに関する知見はまだ彼らに負けないですよ。もちろん、早く彼らが私を追い越してくれるといいなと思っていますが。
齋藤 充弘(さいとう・みつひろ)氏
(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)