ソーシャルメディアには、企業の製品サービスやブランドに関するVOC(顧客の声)が流れている。これらのVOCを“傾聴”し、ソーシャルメディアを通じて顧客とコミュニケーションする新しい形のCRM(Customer Relationship Management)を「ソーシャルCRM」と呼ぶ。2011年10月26日~28日に開催するITイベント「アドテック東京」でソーシャルCRMフォーラムのモデレータを担当するNTTコミュニケーションズ マーケティングソリューション部門 部門長の塚本良江氏に、ソーシャルCRMの現状について話を聞いた。

(聞き手は根本 浩之、羽野 三千世=ITpro



NTTコミュニケーションズ マーケティングソリューション部門 部門長 塚本 良江氏
NTTコミュニケーションズ マーケティングソリューション部門 部門長 塚本 良江氏

なぜ今、「ソーシャルCRM」が重要なのか?

 企業にとって、インターネットはコールセンターやリアル店舗に並ぶ重要な顧客との接点だ。当社のアンケート調査によると、購入した商品に不満があった場合にとる行動として、「インターネット上に書き込む」と回答した人は、「コールセンターに電話する」と答えた人と同数程度いた。

 この調査結果からも分かるように、インターネット上には、自社の製品サービスやブランドに関する膨大な数のVOC(顧客の声)が投稿されている。VOCが書き込まれる場所は、商品比較サイトやECサイトの口コミ、個人のブログ、インターネット掲示板など様々だ。中でも、Twitterをはじめとしたソーシャルメディアを流れるVOCは、企業にとって大変な価値がある。

 ソーシャルメディアに書き込まれるVOCは、より「本音」に近い。店舗で店員さんを捕まえて苦情を言ったり、ブログや掲示板に書き込んだりする行為よりも、Twitterでふとつぶやくことの方が抵抗感が薄いのだろう。

 このようなソーシャルメディア上のVOCを“傾聴”し、顧客と1対1で対話する企業の活動をソーシャルCRMと定義する。ソーシャルメディアの利用者増加に伴い、企業はソーシャルCRMに無関係でいるわけにいかなくなってきた。

具体的に、ソーシャルCRMではどのようなことをするのか?

 ソーシャルCRMの目的は、ソーシャルメディアを通じて、企業と顧客が関心を共有し、対話を通じてWin-Winの関係を築くことだ。例えば、顧客が自社製品に対する苦情をTwitterに投稿したならば、企業はその顧客に対して何らかのアクションをしなければいけない。公式アカウントからその顧客に返信をして話を聞き、問題解決に努力する。

 ソーシャルメディア上での顧客対応は、コールセンターや店舗での接客と違って、そこで交わされる対話がオープンだ。1人の顧客に対して誠意ある丁寧な対応をすれば、その顧客だけでなく、それを見ている大勢の顧客の満足度も向上する。顧客1人の意見にじっくり向き合うことができるのがソーシャルCRMの利点だ。

ソーシャルCRMの運用には何が必要か?

 ソーシャルメディア上のVOCを収集、分析するツールは各社から出ている。当社からも、TwitterとFacebook上に流れるVOCを分析する「CoTweet」、Twitterやブログ、検索ワードから自社に関するVOCを抽出する「Buzz Finder」など、ソーシャルCRMの運用を効率化するツールを提供している。Twitterでは古い対話履歴が残らないので、企業がカスタマーサービスなどを本格展開する場合には、タイムラインの永久保存機能を備えたCoTweetなどを使う必要があるだろう。

 しかし、ツールを用意しただけではソーシャルCRMは上手くいかない。必要なのは、ソーシャルCRMを運用するための組織改革だ。

 ソーシャルメディア上で、企業の名を冠したアカウントから発信した情報はそのまま企業の公式発表になる。VOCにリアルタイムに反応するためには、企業アカウントの運用を担当する社員に、ある程度の権限・裁量を与える必要がある。従来の垂直型リーダーシップの組織体制は、見直さなければいけない。

日本企業には未だソーシャルメディアのビジネス利用に懐疑的な経営トップも多いが?

 今や企業にとって、ソーシャルメディアを使うことよりも、使わないことのほうがリスクになる時代と考える。例えば、どこかで自社の製品サービスが何らかのトラブルを起こしたとき、ソーシャルメディアをモニタリングしていれば早い段階で発見できる。また、インターネット上で騒ぎになり企業のブランドイメージにダメージを及ぼす「炎上」と呼ばれる現象も、ソーシャルメディアへの投稿数をチェックしていれば早期に見つけることが可能だ。

 これからの企業は、こうした兆候をいち早く見つけて、数時間といった単位で対処することが必要になる。今までのように翌日といった日単位で対応する感覚では、ソーシャルメディア上の炎上を食い止めるには遅すぎる。こうした兆候は、その企業がソーシャルメディア上で情報を発信しているかどうかとは関係なく発生する。ソーシャルメディアを使っていないから安心ということではない。

 ソーシャルメディアのビジネス利用に対して消極的な経営トップには、実際にTwitter上に投稿されたVOCを見せてあげればよい。見れば、絶対にその重要性が理解できるはずだ。