1泊4980円からのビジネスホテルを全国で98店舗展開。その宿泊料金の割安感以上に、「快眠、清潔、安全」の3つのサービスを追求することで、ビジネス利用のリピーター客をつかんだ。顧客の声や各ホテルの改善活動を全従業員がイントラネットで共有。IT(情報技術)で顧客満足度の向上を図るとともに生産性を高め、「日本版顧客満足度指数(JCSI)」でビジネスホテル部門の1位を獲得した。

(聞き手は西頭 恒明=日経情報ストラテジー編集長)


スーパーホテルに入るとまず、フロントのそばに何種類もの枕が置かれているのに驚きます。

山本 梁介氏
山本 梁介氏
写真撮影:萩原 均

 材質や高さが異なる中から、お客様に自分に合った枕を選んでいただいています。私どもはビジネス利用のリピーター客にターゲットを絞っています。そのお客様に何を提供すべきかを考え、「快適な睡眠」「清潔」「安全」の3つだけは、ほかのどのホテルにも追随を許さないくらいに徹底すると決めました。

 私は世界の一流ホテルチェーンのほとんどに泊まったことがありますし、リッツ・カールトンや帝国ホテルなども研究しました。それらのホテルが提供している様々なサービスのうち、私どもがターゲットとするお客様にとって本当に大切なものだけに集中し、それ以外はそぎ落とす。花に例えたら一輪挿しのようにしたものが、この3つの要素です。

サービスというと付加する方に向かいがちですが、それとは逆の「引き算」の発想ですね。

 21世紀のホテルとはどんなものなのか。飲食や宴会などを中心とした20世紀型の高級、高価な路線とは違う、新しい価値観を作っていきたいと考えました。

 そうしてたどり着いたのが、睡眠や清潔、安全といった健康であり、併せて省資源・省エネルギーを追求する「LOHAS(ロハス)」というコンセプトでした。物質的な豊かさとしてのラグジュアリーではなく、夜ぐっすりと眠れたとか、ホテルに設けている天然温泉で癒やされたといった精神面のラグジュアリーを感じていただきたいということです。連泊の際、タオルや歯ブラシを交換せずに使っていただいたお客様にお菓子をプレゼントする「エコひいき」などのサービスも、「地球にいいことをした」という充足感を得ていただく、LOHASの視点から展開しているものです。

 ホテルの建物についてもシンプル・イズ・ベストが基本です。基礎や構造、ぐっすりと眠っていただくための客室の防音にはお金をかけています。40デシベル(編集部注:図書館程度の音の大きさ)以上の音が客室に入ってこないように設計・施工しています。一方で、玄関やロビーなどはできる限りシンプルな造りにしました。外観も1階部分にはそれなりにお金をかけていますが、2階以上は非常にシンプルです。うちのお客様がチェックインに来られるのは夜暗くなってからが多いですし、朝出発する際にもわざわざ振り返って建物を見上げるような人はいないでしょうから(笑)。

 客室では10年以上も前から電話機を外しました。今は携帯電話が普及しましたから必要ないかもしれませんが、以前はお客様がゆっくりと話せるようにロビーにブースを設けて公衆電話機を置いていました。それでも客室の電話機や課金装置が必要ありませんから、投資を抑えられるんですね。しかも、フロントで電話代を精算する必要がないので、オペレーションコストも下がります。部屋の電話機を使うと(手数料で)電話代が割高になるため、お客様のクレームを招く要因になりがちですが、そんな心配も要りません。

 客室の冷蔵庫も空ですから、ドリンク代もかかりません。宿泊料金をチェックイン時に前払いしていただいた後、課金対象となるものがないわけです。客室には暗証番号で入室していただくので、ビジネスモデルで特許を取得した「ノーキー、ノーチェックアウトシステム」が可能になりました。

業界横断的に顧客満足度の水準を評価する「JCSI(日本版顧客満足度指数)」で、ビジネスホテル部門の1位になりましたね。

 私どもは「不満足度」と呼んでいるのですが、お客様の不満の要因を接客、身だしなみ、クリンネス、朝食の4つに分け、これらに対してお客様にアンケートで評価していただいています。毎月8000通ほどの回答を集計し、満点の4点に近づけるように改善を促しています。「スーパーウエア」と名付けたイントラネットを通じて、全従業員が自分の店舗が全店の中でどれくらいの位置にあるのかを見ることができます。成績の良くない店舗には社内の「ゴールド作戦チーム」を派遣して、指導に当たらせています。

 こうして不満の要素は取り除きますが、満足度の向上は追い求めません。満足を追ってもきりがないからです。例えば、1泊4980円で宿泊されるお客様に缶ビールを1本差し上げたとしましょう。すると満足の点数は確実に上がります。でも、それを始めたら、次もまた1本ということになって際限が無くなってしまう。ですから満足ではなく「感動」へと、追求する座標軸を変えています。不満を取り除いたら、次はお客様が感動してくださるサービスを目指そうと取り組んでいます。