製造業は国内に投資しない

顧客である日本企業の海外進出も加速していますね。

 震災の後、お見舞いも兼ねていろんな企業を訪問しました。その際、製造業の方々は、電力への不安が続くようだったら、もう日本で設備投資はできないとはっきり言っていました。多くの製造業が海外に出て行ってしまい、雇用も相当減りそうです。国として早急に手を打たないと大変なことになると思います。

 とはいえ顧客が海外へ行くなら、我々も付いて行かなければなりません。ただ、日本企業の案件であっても対応できるものと、できないものがあります。東南アジアや中東のように経験を積み上げて、現地の商習慣や労務事情などを学習した国では対応できます。一方、実績がない国では、現地の商習慣が分からず、サプライチェーンも全くの白紙ですから、引き受けるのは難しいですね。

国内市場は縮小するとのことですが、当面は震災復興需要で膨らむのではありませんか。

山内 隆司 氏
写真:陶山 勉

 顧客からも同じような質問をよく受けますが、なかなかそうはいかないと考えています。確かに今、東北で復興事業が出てきていますが、それは地元の建設会社に発注されるものばかりです。我々のところにはまだ、具体的な形では来ていません。

 国も地方自治体も当面は復興事業に予算を回すでしょうけれども、その分ほかのプロジェクトを止めたりしていますから、全体の公共事業は思ったほど増えないのではないでしょうか。民間の設備投資が国内から消えていくことを考え合わせると、復興特需で建設業界が沸き立つというふうにはならないと思います。

電力の問題もあって、震災復興で「スマートシティ」を建設しようという機運が高まっています。建設業としてはどのように取り組みますか。

 私は業界団体の仕事もやっていますが、正直言って我々の出番はあまりないと思います。やはり全体のデザインやマスタープランは行政がやるべきであって、個々の部分の話になって初めて、我々にはこんなアイデアがありますよとか、こういうことが技術的に可能ですとか言えるわけです。ですから、お手伝いはしますが、我々が主導権を取ってというのは現実的な話ではありません。

それでは建設業として、これから国内で取り組むべきことは何だとお考えですか。

 国民の安心、安全のために何をなすべきかです。例えば1981年の新耐震基準以前に建てられたビルについて、最近明らかになった長周期地震動への対策をどうするかということがあります。当社が本社を置く新宿センタービルも1981年以前の建物です。建設会社の入っているビルが被害にあっては話にならないので、いち早く対策工事を施しました。

 その結果、今回の震災でも周りのほかの超高層ビルとは、揺れ方が大きく違いました。今それをいろいろ分析して、結果を改めて発表しようと思っています。これはITにとっても、重大な課題ですよね。揺れ方が大きいと、IT関連のいろいろな設備が全部駄目になってしまいますから。

 いずれにせよ、今までの日本は他の国に比べると、建物を造っては壊し、造っては壊しが多かった。これからは、いったん造った良いものは、補強しながら長く使っていくというふうに日本全体が変わっていくと思います。

全部自前でとは言わない

最後に、IT部門に対して望むことを聞かせてください。

山内 隆司 氏
写真:陶山 勉

 現場の要求をしっかり聞いてくれと、これまで散々言ってきました。要は、自己満足であっては駄目だということです。我々経営や土木部門、建築部門、そして管理部門が何を望み、何をやってもらいたいかを、IT部門がしっかり把握してほしいわけです。

 そして、費用対効果も見極めてもらいたい。私は、自前で全部やれとは言いません。自前でやるのが良いのか、外注のほうが良いのか、外注の場合どこと組むと費用対効果の面で一番良いのか、それをジャッジするのがIT部門の役割です。


大成建設 代表取締役社長
山内 隆司(やまうち・たかし)氏
1969年5月に東京大学工学部建築学科卒業、同年6月に大成建設に入社。99年6月に執行役員 関東支店長に就任。2002年4月に常務役員 建築本部長、03年4月に常務役員 建築本部長兼社長室副室長。04年6月に専務役員 建築本部長兼社長室副室長。05年6月に取締役 専務役員 建築本部長兼社長室副室長、同年10月に取締役 専務役員 建築総本部長兼建築本部長兼社長室副室長、06年4月に取締役 専務役員 社長室長。07年4月より現職。1946年6月生まれの65歳。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)