Linuxディストリビューションの最大手、米レッドハットは今、オープンソースソフトウエアによるクラウド基盤を一手に提供する企業に変貌しようとしている。存在感が大きくなるに従い、他社による買収の可能性も取り沙汰される。2007年に米デルタ航空のCOO(最高執行責任者)から転じたジム・ホワイトハースト社長兼CEO(最高経営責任者)に、クラウド戦略と同社の未来を聞いた。

ジム・ホワイトハースト 氏
写真:陶山 勉

最近、オープンソースソフトウエアを使った2種類のクラウド基盤を発表しました。その狙いを話してください。

 まず基本的なコンセプトとしては、クラウドコンピューティングは大きなテクノロジー上のパラダイムシフトであることです。以前のメインフレームからクライアント/サーバー・システムへの移行に匹敵するような大きな動きだと考えています。

 そうしたなかで我々が今回発表した「CloudForms」は、IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)を構築・管理するソフトウエア製品群で、ユーザー企業がクラウドを活用するためのインフラとなるものです。もう一つの「OpenShift」は、開発者向けのPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)です。

 ヴイエムウェアやマイクロソフトのものと違うのは、オープンソースコミュニティーをベースにソフトウエアが開発されているという点です。クラウドでは数年のうちにオープンソースが支配的な勢力になるのは間違いありません。従ってオープンソース市場でリーダーである我々が、クラウドでもリーダーのポジションを得ることができるはずです。

Web2.0関連企業が技術を主導

クラウド基盤の開発では、リース管理などの面でハードウエアベンダーの協力が不可欠ですし、オープンソースコミュニティーの活動がうまく回ることも重要だと思います。そのあたりは万全ですか。

ジム・ホワイトハースト 氏
写真:陶山 勉

 まさにハードウエアベンダーとの協力関係が重要ということで、今年5月に「オープン・バーチャライゼーション・アライアンス」を設立しました。IBM、インテル、HP(ヒューレット・パッカード)などが参加しています。ベンダーにはCloudFormsの基盤となる仮想化技術「KVM」など、オープンソースの選択肢を支持し、支援してもらっています。

 日立製作所、富士通、NECといった日本の大手ITベンダーも、KVMに大きな関心を持ってもらっていますよ。もちろん、KVMがVMwareに全部取って代わろうというわけではないのですが、やはりVMware以外にも選択肢が必要だと思います。

 オープンソースコミュニティーをマネジメントしていくのは、確かに難しいことです。ただ我々自身が直接コミュニティーをマネジメントしているわけではありません。そうしたコミュニティーを主導しているのは、グーグルやフェイスブック、アマゾン・ドット・コムなどの技術者です。

 彼らは、数十万というサーバーを運営している主体であり、そうした主体がそれぞれのプロジェクトにおいて問題を解決してナレッジ化したり、いろいろな形でコントリビューション(貢献)したりしているのです。一方、レッドハットの役割は、そういった成果を顧客である一般企業に届けることです。

 既存のITの枠組み、特に技術革新のベースが大きく変わってきているように思います。クラウドでは、アマゾンなどWeb2.0関連の企業の主導で技術革新がもたらされているわけで、決してITベンダー主導ではないわけです。

OpenShiftは開発者向けのPaaSとのことですが、サービスとして提供するのですか。

ジム・ホワイトハースト 氏
写真:陶山 勉

 これは製品ですが、サービスでもあるとも言えます。これまでのものとは少し違ったタイプの製品なのです。

 ユーザー企業やアプリケーション開発者は、長期的にクラウドを有効活用したいと考えています。しかし今は、特定のクラウドで開発すれば、そのクラウドでしか実行できません。そこで、アプリケーションの開発環境と実行環境を分けるという考え方にたどり着きました。OpenShiftでは複数のクラウドで自由に開発、実行できるようにします。ベータ版ではアマゾンのクラウド上で提供しますが、今後順次ほかのクラウドに対応していきます。

 このOpenShiftは非常に重要な製品だと思っています。なぜなら、今後は多くの開発者やISV(独立系ソフトウエアベンダー)が、PaaSの環境のみでアプリケーションを開発するようになると考えるからです。複数のクラウド環境に対応できるようにするだけでなく、iPhoneのように誰でもが開発できる環境を、サーバー側でも提供していくことが必要です。

ベンダーロックインを避ける

ユーザー企業の立場からすると、ベンダーロックインの心配がなくなるというわけですか。

 その通りです。ベンダーロックインについては、ITコストに非常に大きな影響を与えます。ITコストの高止まりの大きな要因は、長期的に他の選択肢がないことにあります。これは1980年代に多くのユーザー企業が経験したことですが、特定のプラットフォームにロックインされてしまえば、クラウドでも同様のことが起こるでしょう。

米レッドハット 社長兼CEO(最高経営責任者)
ジム・ホワイトハースト 氏
1989年、米ライス大学のコンピューターサイエンス・経済学部を卒業。後に米ハーバードビジネススクールでMBAを取得。米ボストンコンサルティンググループ(BCG)の副社長兼コンサルティングディレクターなどを経て、2002年に米デルタ航空に入社。05年にCOO(最高執行責任者)に就任。2007年12月より現職。1967年生まれ。米ジョージア州出身。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)