Twitterや各種SNSなどソーシャルメディアの普及が進むにつれて、ネットマーケティングへの期待は年々高まっている。電通の調査報告書「2010年日本の広告費」によれば、総広告費が伸び悩むなかで、インターネット広告費は前年比9.6%増えた。インターネット広告の米国業界団体、Interactive Advertising Bureau(IAB)が2011年4月に発表した調査結果によれば、米国でのネット広告費の伸びはさらに大きく、前年比14.9%も伸びた。

 こうした数字だけ見れば、ネットを活用した販促活動は順調に発展しつつあるように見える。ただし、ネット販促が成功したと胸を張る企業はまだそう多いわけではなく、水面下では期待外れに終わった事例も少なくないとされる。そこで、かつて甘味料「キシリトール」のブームを仕掛けた実績を持つマーケティングコンサルタント、インテグレート代表取締役CEOの藤田康人氏に、ネットマーケティングで失敗する原因となる誤解と、打開策について聞いた。

(聞き手は井上 健太郎=ITpro


写真●インテグレート 代表取締役CEO 藤田康人氏
写真●写真●インテグレート 代表取締役CEO 藤田康人氏

ソーシャルメディアを活用したマーケティングに関する誤解にはどんなものがあるのだろうか。

 Twitterやフェイスブックなどの口コミ系メディアは、長い時間をかけて、アドボカシー(支持)を増やしエンゲージメントを作るのには向いている。例えば、東急ハンズのTwitter活用はそれをうまくやっている一例だろう。

 しかし企業でマーケティングに関わる人たちの間には、ネットでもマスメディアのように目立つ形で自社情報を露出させることで口コミや評判をコントロールし、短期間で成果を上げたいという願望が根強い。それが高じて“やらせブログ”のような発想にも陥りがちだ。

 トライバルメディアハウス代表取締役社長の池田紀行さんは、「お金や手間がかからない」「バズ(評判の口コミ)がすぐ広がる」「すぐ会員獲得につなげられる」「フェイスブックで客を囲い込める」といった安易な期待がソーシャルメディアに対してあるとよく語っている。私も同意見だ。

では、そうした考えを持ったクライアントから相談を受けたときは、どのようにアドバイスしているのか。

 ソーシャルメディアだけを見て何とかしてやろうと考えず、もっとホリスティックな(総合的な)発想を持とうということだ。

 実のところ、ソーシャルメディアで生まれる口コミの元ネタのほとんどはマスメディアの情報がきっかけになっている。それに、フェイスブックやTwitterではどんなに頑張っても、ファンやフォロワーは多くてせいぜい数万人しか獲得できない。短期間で認知度を向上させようとするなら、テレビなどマス媒体を使ったほうが明らかに有効だ。

 もちろん、ソーシャルメディアを通じてファンやフォロワーにアプローチし続けるやり方でも、これまで無関心だった人が興味を持つきっかけを口コミで作ってもらえる可能性がある。そのようにして潜在顧客にアプローチできるのはすごいことだが、長い時間をかけなければならないだろう。

そうしたアドバイスで、クライアントはすぐに取り組み方を変えるのか。

 なかなか難しい。というのも、日本企業の関連組織は細分化されて縦割りになりすぎているから。宣伝部がマス媒体の広告を担当し、広報がPRを担当し、デジタルマーケティング部がWebを担当し、販促は事業部内に担当者がいるといった体制だ。

 この問題に気づき、事業部の権限を増やして、他部門を巻き込む形で統合的に複数メディアを活用しようとしている企業もある。そうしたとしても、事業部にマス広告やソーシャルメディアなどを知っている人が集まっているかどうかという問題が残る。

 その点、海外企業の場合は、CMO(チーフマーケティングオフィサー)が、認知やブランドを上げるためなら何を使おうが構わないと旗振り役となり、総合的な取り組みをけん引していることが多い。