OpenFlowを導入して、どういう効果を見込んでいるのか。
複雑なネットワークの設計・設定から解放されることが大きい。まず、LANスイッチの実行部分と、経路を管理・制御するコントローラー部分が独立していて、ネットワーク全体の設定を集中管理できる。ネットワーク構成に大幅な変更があっても、スイッチ1台ずつの設定を変える必要はない。
同時に、「どのIPアドレスからどのIPアドレスへ」といったフロー単位でトラフィックを管理・制御するから、複雑な設計が要らなくなる。「フローテーブル」でフローの定義などを登録するだけで、トラフィックを細かく区別して、それぞれに適切な経路を割り当てられる。
これら両方の特徴から、サーバー側の規模拡大に合わせてLANスイッチを増強していけるメリットも得られる。この点も重視している。
現状では、OpenFlow対応のスイッチは、どの程度の規模で利用しているのか。
仮想化したサーバー群を束ねるコア部分に導入している。通常利用するシステムを設置してある川崎のデータセンターと、プライベートクラウド構築と並行して建設を進めてきた長野のバックアップサイト(災害対策用のディザスタリカバリーサイト)の両方に設置した。6~8台のスイッチをラダー(はしご)状につなぎ、その中でアプリケーションの種類などの単位で最適な経路を選ぶようになっている。
まだ仮想化していない既存サーバーは、OpenFlow環境ではなく、従来のコアスイッチの配下に接続してある。ここもプライベートクラウドへの移行に合わせて、OpenFlow対応スイッチの配下につなぎ替えていく予定だ。
OpenFlowは世界的に見てもほとんど導入例がなく、不安は大きかったのではないか。
確かに不安はあった。それでも、従来のICT、従来のやり方では、思った通りに柔軟性が高く、ビジネス環境の変化に強いシステムは作れない。ハードウエアにしてもソフトウエアにしても、従来の手法とは全く違うアプローチに変えなければダメだ。だから、チャレンジングだと思いながら、将来性を信じてOpenFlowを採用した。
評価段階からずっとベンダーと一緒にやってきたこともあり、導入は「こんなもんかな」というくらいあっさりしていた。今はもう不安はない。
日本通運にはもともと、新たな取り組みに積極的にチャレンジしていく文化があったのか。
特に何でも新しいものに一番に取り組むというほどの思いはない。ただ、重い、高い、大きいシステムから脱却すべきという考えはあって、常に新しい技術を頭に入れていることは確かだ。
新しい製品や新しい考え方、アーキテクチャーに挑戦していくことは、ICTやビジネスの仕組みを変えられると同時に、IT推進部のモチベーション向上にもつながる。だからスタッフとは、どこかでそういうチャレンジをしていこうと常々話している。
次の展開について教えてほしい。
今後は、さらにインフラの整備を進める。メドがついたら、次はアプリケーションの変革に着手する。スピード感を重視して、柔軟性の向上を図る狙いは同じ。そのために、アプリケーションの部品化を進める。
構想段階だから、どれほどまで実現できるかは分からない。ただ、システム開発や変更にかかる時間を劇的に短縮する、ユーザーにとって使いやすいものにするといった目標のためには、今までの方法では限界がある。だから新しいICT、新しいアプローチを取り込んでいく。
野口 雄志(のぐち・ゆうし)氏
(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2011年7月7日)