仮想化技術を駆使してプライベートクラウドを構築---。いまや珍しい話ではない。しかし日本通運の場合はひと味違う。災害や環境変化への素早い対応を追求し、プライベートクラウドに最先端のネットワーク技術「OpenFlow」を取り込もうとしている。IT推進部長の野口氏に狙いを聞いた。

LANスイッチの制御機能とデータ転送機能を独立させる新技術「OpenFlow」の導入に踏み切った。世界的に見ても導入例はほとんどないはずだが、きっかけは何か。

野口 雄志(のぐち・ゆうし)氏
写真:新関雅士

 直接的なきっかけは、プライベートクラウドの構築だ。グループ内で使っているサーバーのうち約500台を、仮想化技術を使って100台程度にまで集約しようとしている。

 プライベートクラウドの検討を始めたのは2008年、プロジェクトが立ち上がったのは2009年。2010年にトライアルで何台かを標準インフラとしての仮想化環境に移した。そして2011年1月に本格的にサービスインした。

 プライベートクラウドの目的は、サーバー集約によるコスト削減もあるが、それよりも情報システムやネットワークの柔軟性を高めることのほうが大きい。よく言われていることだが、ビジネス環境が激変する可能性が高い今の世の中、従来のような「重い」「高い」「大きい」システムを使っている時代ではない。ビジネスや環境の変化に合わせて、最適になるよう仕組みを適宜作り替えながら利用していく必要がある。

プライベートクラウドならそれができると。

 サーバーを仮想化しておけば、動作するリソースを素早く増強できるし、構成を変えるときにもすぐに切り替えられる。

 最終的に重要なのは、ユーザー(グループ従業員)に対していかに素早く使いやすいアプリケーションを、低コストで提供できるか。もちろん品質もよくなければいけない。そのためには、ネットワークを含めたICTのインフラ全体が急速に変化する環境に適していなければ実現できない。

OpenFlowはそのための選択だったということか。

 そうだ。実際のところは、アプリケーションに柔軟性を持たせるとなると、一朝一夕にはできない。実現してもすぐに効果が目に見える形で現れるかどうかも分からない。だからまず、導入するとすぐに効果が見えるインフラの変更に着手した。具体的には、データセンター内で運用しているシステムのうち移行しやすいものから仮想化環境に移し始めた。

野口 雄志(のぐち・ゆうし)氏
写真:新関雅士

 サーバー仮想化技術を使うことで、サーバー周りは大幅にコストを削減できたし、システムの開発や変更を素早く進められるようになった。ただ、ICTインフラのなかではネットワーク部分が追いついていなかった。ネットワークについては、何か起こったときにどうすれば素早く切り替えられるのか、「これだ!」というアイデアが、なかなか浮かばなかった。

 サーバーを追加したり、仮想マシンの稼働対象を変えたりすれば、バーチャルLAN、冗長化プロトコルなど、ネットワークの各種構成・設定も同時に変えなければならない。従来型のネットワークは、規模が大きくなるほど構成や設定が複雑になる。仮想化によってサーバーの構成変更の時間を短縮しても、ネットワークの変更で時間と労力を費やすことになる。

 できればそこは自動化したい、サーバーが切り替わったらネットワークも自動的に切り替わるのがいい。スタッフは、そういう単純な運用方法を模索した。そんな折にOpenFlowの技術を知り、ちょうど製品実装・実用化されるところだということが分かった。それから調査し、実装製品のメーカーであるNECと一緒に評価を繰り返した結果、「使える」と判断した。

日本通運 IT推進部長
野口 雄志(のぐち・ゆうし)氏
1953年生まれ。1971年、日本通運総務部通信課(情報システム部門)入社。1977年に海外引越支店営業主任、1982年に米国日通のロスアンゼルス支店システム課長。その後、日本通運の海外引越システム課長、東京国際輸送支店システム統括課長、米国日通の米州地域情報システム課長、米州地域情報システム部長を歴任。2007年、日本通運IT推進部長に就任(現職)。米国プロジェクト・マネジメント協会(PMI)認定国際資格、プロジェクト・マネジメント・プロフェッショナル(PMP)を取得。

(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2011年7月7日)