日経情報ストラテジーが優れたCIO(最高情報責任者)に与える賞で、ITpro EXPO展示会での記念講演が名物となっている「CIOオブ・ザ・イヤー」。第8回となる今年の栄えある受賞者となったパーク24の川上紀文氏のインタビューを紹介する。

 時間貸し駐車場最大手のパーク24 CIO(最高情報責任者)の川上紀文・執行役員事業企画本部長(44歳)に話を聞いた。同社は不況下でも手堅く利益を上げている。2009年10月期は連結売上高953億円(前期比17.9%増)、連結営業利益が105億円(同18.4%増)となり、リーマンショック後の不況の影響を受けつつも、11.1%に上る売上高営業利益率を維持する。2009年3月にはマツダレンタカー(広島市)を買収してカーシェアリング事業に本格参入するなど、攻めの姿勢を強めている。

※川上氏は2011年度のCIOオブ・ザ・イヤーを受賞した。

(聞き手は清嶋 直樹=日経情報ストラテジー

パーク24 執行役員 事業企画本部長 川上 紀文氏
パーク24 執行役員 事業企画本部長 川上 紀文氏
写真撮影:稲垣 純也

西川光一代表取締役社長は「(リーマンショックが起きる半年前の)2008年2月ぐらいにはデータ上は不況の影響が出ていた」と公言しています。今回の不況は本当に予測できたのでしょうか。

 私たちは予測するために情報システムを構築・活用してきました。2001年から順次構築を進めてきた「TONIC(トニック)」がそれです。初期投資額は40億円、当時の当期利益の2倍という大型投資でした。

 TONICはいわば駐車場版のPOS(販売時点情報管理)システムです。現在は全国に約8900カ所ある「タイムズ」ブランドの駐車場をネットワークで結び、1区画ごとの満車・空車データをほぼリアルタイムで集約するシステムです。TONICによって満車・空車情報を顧客のカーナビゲーションシステムに配信したり、クレジットカード決済やポイントサービスを提供したりすることで、駐車場としての顧客サービス向上を図りました。

 この仕組みを整備したことが、予測・先読みを可能にするきっかけでした。今になって考えると、顧客サービス以上に、「計画」ができるようになったことがTONICの導入効果でした。

「ストックビジネス」だから1年先を読める

なぜTONICが計画につながるのですか。

 我々の駐車場運営事業は「ストックビジネス」です。駐車場を作るには、用地を見つけてきて地主さんと交渉して契約する必要があります。さらに、駐車場を作っても、顧客に場所を認知してもらい、固定客が付くまでには時間がかかります。今期作った駐車場がストックになって、来期以降に利益をもたらすという事業構造です。

 TONICでは、過去に作った駐車場のストックがどれだけ利益を生んでいるかが一目で分かります。その駐車場にどういう顧客が付いていて、どの時間帯に入出庫をしているかということも分かります。

 ある駐車場の利益が落ちているなら、その周辺地区で集中してチラシを配布したり、近隣店舗との提携を広げたりという需要喚起策を取ります。有望な地区なのに十分に利益を得られていないなら、さらに駐車場用地の“仕込み”を進めます。

 逆に、地区の駐車場需要が減退して「この地区はもう駄目だ」と分かれば、他地区での用地開発に担当者の労力を振り向けます。TONICでは、既存の駐車場の損益状況だけではなく、翌月や翌年にどの程度の損益を生む駐車場が何件稼働する予定かということが分かります。逆算すれば、「もう少しこの地区の用地開発を急ぐ必要がある」といった、今やるべきことを確認できます。

駐車場から発生するデータは、当初から用地開発や利用促進を担う現場の担当者の間で積極的に活用されていたのですか。

 いいえ、初めからデータが十分に活用されていたわけではありません。私がパーク24に入社したのは2003年10月です。当時、TONICは既に稼働しつつありましたが、通信費などの運用コストがかさむ一方でした。これを予測・先読みができる形に整備して利益を生むように変えるのが、私の仕事だったのです。

 具体的にはTONICを現場の担当者が使えるシステムにする必要がありました。担当者に情報提供し活動を支援する仕組みは、一般的にはSFA(セールス・フォース・オートメーション)と呼ばれています。SFAでは担当者が行動を入力する負荷がかかるという問題がつきまといます。

 当社でも、全国各地にいる担当者が業務で街を巡回して、駐車場にできそうな土地があれば入力してもらっています。交渉が始まればその案件の進捗状況も入力します。この情報は、既存の駐車場の損益とともに地図上に表示され、地区ごとに集計されます。だからこそ、「この地区では、現行の駐車場の損益がいくらで、交渉中の案件がこれぐらいある」という分析が可能になります。