日経情報ストラテジーが優れたCIO(最高情報責任者)に与える賞で、ITpro EXPO展示会での記念講演が名物となっている「CIOオブ・ザ・イヤー」。これまでの受賞者の中から、非製造業代表としてリクルートの藤原章一氏のインタビューを紹介する。

 2008年3月期に連結売上高1兆66億3500万円、経常利益1629億2500万円を計上したリクルート。就職や進学、引越し、結婚といった人生の節目で役立つ媒体を作り上げて日本人の生活に欠かせない存在になっている。

 「世の中の人たちは何を求め、リクルートは何ができるのか、各自が考えられるIT組織にしたい」と話す執行役員の藤原章一氏(46歳)は同社では珍しくシステム畑一筋。ただし語り口はリクルートの営業マンそのもの。現場の情熱と全社最適の両立を目指すIT(情報技術)ガバナンスとはどんなものか、いかなる人材を育てるのか、景気が悪化するなかでIT投資はどうするのかを語ってもらった。

※藤原氏は2009年度のCIOオブ・ザ・イヤーを受賞した。

(聞き手は上木 貴博=日経ビジネス)

リクルート 執行役員 IT・事業開発担当 藤原 章一氏
リクルート 執行役員 IT・事業開発担当
藤原 章一氏
写真撮影:稲垣 純也

リクルートにおけるIT(情報技術)活用の特徴はどんな点でしょうか。

 1つはビジネスに直結しているシステムが大半であることです。インターネット関連と情報誌を発行するシステムが全体の3分2以上を占めています。次に現場社員の熱い思いを大切にする企業風土なので、現場のやりたいことを素早く実現するスピードを重視している点です。

 2000年に全社共通の情報システム部門であるFIT(Federation of IT)ができる以前は、住宅や人材といったカンパニーに独自のシステム担当者がいるだけで、情報システム部は全社的なインフラのみを手がけていました。情報システム部がカンパニーにシステム構築を頼まれる際も、要件定義が決まってからという状態でした。

 そうすると、どうしても現場感がないんですよ。今は13のカンパニーの現場にFITの社員数人ずつが机を並べています。商品企画を見たり、たまにはお客様先への営業に同行したりと、隣で普段の会話を聞けるようにすることでリアリティーを感じて良いものを作れるようになるし、開発のスピードも上がります。

現場重視の姿勢と全社的なITガバナンスの両立は難しくないでしょうか。

 “地方分権”と“中央集権”のバランスを取るのは難しい。特に現場にいるFITの社員は半分、事業部門の人間の感覚になっているわけで、下手したら御用聞きになる。目の前の現場のスピード感に合わせるべきか、全体最適や長期的な展望を優先させるべきなのかと悩んでしまうわけです。私自身、どういう形が良いのか迷った時期もありました。

 そこで2004年にFITとしてのビジョンを明確にするために全員を集めて1泊2日の合宿をやったんです。初日に今抱えている課題や不安、不満を吐き出してもらいました。文句を言い飽きると建設的な議論になるので、2日目は課題に対する解決策を話し合いました。合宿が終わった後に「FITのビジョン作りに参加したい」という者を募集して、その8人と私で3カ月かけて100時間ぐらいミーティングを開き、2005年に「Real IT.(リアルイット)」というFITの存在意義を明文化しました。

 Real IT.に「Real Collaborations」、つまり私たちは事業部門の信頼できる共謀者であるという一項があります。単純に同化するのではなく、ITのプロとして発注者、受注者の関係を超えて対等にぶつかり合えるような状態を目指しています。世の中や顧客のために自分たちはITで何ができるのか、自分たちでも仮説を持ちながら事業部門に提案していこうということです。

 リクルートにはひらめきや行動力に優れた人材は多いのですが、全員がプロジェクトマネジメントに長けているわけではありません。課題を整理して優先順位をつけたり、外部ベンダーと交渉したりという部分でのFITの貢献度は大きいです。頼られるとうれしいし、やりがいも出ます。