ニフティのIaaSサービス「ニフティクラウド」は、簡単に使えることに注力した、VMware仮想サーバーのホスティングサービスである。Webブラウザー上のコントロールパネルから、所望の仮想サーバーを配備・設定できる。2011年8月22日には、仮想サーバーイメージを異なるユーザー間でコピーして再利用する「イメージ配布」を実現した。同社でクラウド事業に携わる新井直樹氏と渡邊太郎氏に、イメージ配布の背景と意義を聞いた。

(聞き手は日川 佳三=ITpro



イメージ配布機能の背景と意義は何か。

ニフティでクラウド事業部クラウド営業部課長を務める新井直樹氏(写真左)と、クラウド事業部クラウドビジネス部の渡邊太郎氏(写真右)
ニフティでクラウド事業部クラウド営業部課長を務める新井直樹氏(写真左)と、クラウド事業部クラウドビジネス部の渡邊太郎氏(写真右)

新井氏: ニフティは、昔からパートナーとともにビジネスを作ってきた。パソコン通信(NIFTY-Serve)のときも、フォーラム(会議室)ごとにシスオペ(管理者)を置き、彼らの力を借りて運営してきた。今回、ニフティクラウドに追加したイメージ配布機能も、パートナーとともにビジネスを作り上げることを狙っている。

 現状、ニフティクラウドのイメージは、OSだけが乗ったプレーンな仮想サーバーを提供するIaaSクラウド、というものだ。実際問題として、ニフティクラウドの利用者がニフティクラウドを使って動かすアプリケーションやミドルウエアのすべてを、ニフティ1社で提供することはできない。

 しかし、これらを提供できるパートナーをエコシステムに取り込むことで、パートナーが提供してくれるアプリケーションやミドルウエアを利用者に届けることができる。パートナーが参画することでニフティクラウドの魅力が増し、パートナーはニフティクラウドを介して販売経路を拡大できる。イメージ配布機能は、エコシステムを構築するためのエンジンになる。

イメージ配布機能の特徴と活用シーンは。

「商品棚」の画面。公開・配布されている仮想アプライアンスを一覧できる
「商品棚」の画面。公開・配布されている仮想アプライアンスを一覧できる
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渡邊氏: イメージ配布機能は、アプリケーションの導入や設定を施した仮想サーバーをイメージの形で保存し、これを異なるユーザーID同士の間でコピーして再利用する機能だ。以前も、同一ユーザーIDであれば、こうしたカスタムイメージの作成と再利用が可能だったが、これを異なるユーザーID間でも可能にした。

 イメージ配布機能の活用シーンは、大きく三つある。(1)ユーザー企業が自社内の開発環境をプロジェクト横断的に標準化する、(2)SIベンダーが業務システムをパッケージ化して複数企業に導入する、(3)業務アプリケーションを仮想アプライアンス化して流通・販売する、という具合だ。

 (1)開発環境の標準化にイメージ配布機能を使うと、開発プロジェクトごとにニフティクラウドのユーザーIDを使い分けることができる。ユーザーIDを使い分けることによって、プロジェクトごとのコストを別々に把握できるようになる。この状況を保ったままで、新規プロジェクトの立ち上げ時には、開発環境一式を即座に用意できる。

 (2)SIベンダーの利用ケースでは、SIベンダーの顧客がそれぞれニフティクラウドのユーザーIDを持つ(または割り当てる)状況において、SIベンダーからそれぞれの顧客へと、アプリケーションパッケージをコピーできる。環境を即座に用意できるため、カットオーバーまでの納期を大幅に短縮できる。

 (3)仮想アプライアンスの流通では、アプリケーションを販売したいパートナー企業が、ニフティクラウドを介して仮想サーバーイメージの形で販売できる。パブリックイメージと呼ぶ公開リストに商品を陳列できる。

 2011年9月1日現在、アーク情報システムのメールセキュリティ製品「SpamSniper on NIFTY Cloud」と、ディアイピィのメールアーカイバ製品「MailArchivaパブリックイメージ for NIFTY Cloud」の提供が決まっている。後者はすでに公開されており、利用できる状態だ。ほかにも、十数社との間で調整中だ。

仮想アプライアンスを登録するのにかかる料金は。

新井氏: 無料だ。もともとニフティクラウドは、仮想サーバーイメージの作成時に作成費用が、イメージの保存には維持費用(月額)が必要になるが、仮想アプライアンスを登録するパートナーは、パートナー特典として、これらの費用が無料になる。さらに、仮想アプライアンスをパブリックイメージとして公開することも無料だ。商品が売れてユーザーを獲得しても、ニフティに対する料金は発生しない。

 ただし、いずれは、ニフティクラウドの利用料金を設けるかもしれない。現在のニフティクラウドでは、仮想アプライアンスの販売料金や利用料金をパートナーに成り代わってユーザーから徴収する課金機能がない。各パートナーが各パートナー独自のやり方でユーザーから料金を徴収するしかない。今後、ニフティクラウドが課金機能を提供した際には、パートナーと共同事業を展開することでパートナーから利用料を取るかたちも考えている。