「全力案内!ナビ」というスマートフォン向けのカーナビアプリ(関連記事)を提供している野村総合研究所(NRI)。全力案内!ナビは、以前はユビークリンクというベンチャー企業が提供していた。同社が2011年7月1日付でNRIと合併したことにより、現在はNRIの提供となっている。合併の理由や今後の事業展開などを、増田有孝ユビークリンク事業部長(元ユビークリンク代表取締役社長)に聞いた。

(聞き手は安井 晴海=ITpro


ユビークリンクとNRIはどのような経緯から合併したのか。

野村総合研究所 ユビークリンク事業部長 増田有孝氏
野村総合研究所 ユビークリンク事業部長 増田有孝氏
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 そもそもユビークリンクは、4年ほど前にNRIの100%出資で設立した会社だ。このとき、一般消費者に対して直接ビジネスを展開する事業は、NRIとしてはあまりやったことがなかったため、ユビークリンクを設立した。消費者向けビジネスは、ビジネスのスピードが全然違う。NRI本体でやっていては意志決定のスピードに欠ける場面が出てくる可能性があるということで、子会社とした。

 ユビークリンクでは、「全力案内!」というナビゲーションサービスを始めるなど4年間いろいろとやった。しかし最近は、企業とのコラボレーションが増えてきた。ユビークリンクでは、一般消費者向けの「全力案内!事業」だけでなく、企業向けの「ビジネスソリューション事業」も一つの大きな事業の柱だった。ビジネスソリューション事業は、企業に対して、当社独自のプローブ交通情報を販売したり、全力案内!を特定企業向けにアレンジしたサービスを提供するというものだ。

 企業とのコラボレーションが増えてくると、NRIとの事業シナジー効果が期待できる。そして、より効率的にヒトやカネを投入していくにはNRIの総合力が頼りになる。そこで、NRI本体に戻ったほうが良さそうだと判断し、7月1日にNRIと合併した。

企業とのコラボレーションとは具体的にはどのようなものか。

 代表的なサービスは、トヨタ自動車と連携して提供している「G-BOOK全力案内ナビ」だ。最大の特徴は、オペレーターを介して全力案内ナビの目的地設定ができること。例えば、「いま私が走っている場所から一番近い『おそば屋さん』を探してほしい」といった要望を電話でオペレーターに告げると、オペレーターが適切な店を探し出して、全力案内ナビに目的地データを送り込んでくれる。

 オペレーターは、ユーザーが走っている位置の緯度・経度を把握しているため、ユーザーが「いまどこにいるのか」を申告しなくても対応できる。

 G-BOOK全力案内ナビは、携帯電話(フィーチャーフォン)版のほか、スマートフォン向けにiPhone/iPad版とAndroid版があり、半年間900円などの料金で利用できる(表1)。また、8月1日に料金体系を拡充し、auのスマートフォンユーザーに向けて「au one Market」で月額263円の月額課金を開始した。10月末までに申し込むと、最初の60日間は無料で利用できるキャンペーンも実施している。

表1●iPhone/iPad版、Android版G-BOOK全力案内ナビの概要
iPhone/iPadG-BOOK全力案内ナビ900円/半年ナビゲーション、オペレーターサービス、経路音声案内、プローブ交通情報など
プレミアムオプション700円/半年交差点拡大表示、交差点音声案内、VICS交通情報など
AndroidG-BOOK全力案内ナビ900円/半年ナビゲーション、オペレーターサービス、経路音声案内、プローブ交通情報など
プレミアムG-BOOK全力案内ナビ1600円/半年ナビゲーション、オペレーターサービス、経路・交差点音声案内、交差点拡大表示、プローブ交通情報、VICS交通情報など
263円/月(au one Marketで販売)

 トヨタとのコラボレーションで実現しているG-BOOK全力案内ナビだが、トヨタ車ユーザーでなくても利用できる。トヨタとしては、非常にオープンなマインドの戦略だ。現在はトヨタ車でなくても、こうしたサービスを通じてトヨタに興味を持ってもらい、将来的にトヨタ車を買ってもらえれば良いと考えている。

 このほか、日本風力開発、トヨタ自動車、パナソニック電工、日立製作所が2010年秋から青森県で実施している「六ヶ所村スマートグリッド実証実験」にも参加している。

 具体的には、スマートフォンと車載ディプレイの連携実験。これは、スマートフォンと車載ディスプレイの間をBluetoothで無線接続し、相互連携させるというもの。スマートフォンからは全力案内!ナビのナビゲーション画面を転送して、大きな画面の車載ディスプレイに表示する。一方、車載ディスプレイもタッチパネル式となっており、ナビを操作できる。例えば、車載ディスプレイ上で「リルート」ボタンを押せばリルートを始めることができるといった具合だ。

 スマートフォンを持ち歩くユーザーにとっては、もはやナビゲーションは車に乗っているときだけに必要な機能ではない。自動車から離れているときにもナビを利用し、車に戻った際には自動的に画面の大きな車載ディスプレイに表示できれば使い勝手が良い。いずれ、そういった利用シーンが現実のものになるとみて、現在、実験を実施しているというわけだ。