読み間違えたスマホの普及

スマートフォンの普及が追い風になりそうですね。ただ部品事業はともかく、機器事業ではスマートフォンの投入で他社に遅れを取っていますが。

久芳 徹夫(くば・てつお)氏
写真:吉田 竜司

 他社に比べて必ずしもスマートフォンで出遅れたわけではありません。我々も昨年、北米でスマートフォンを出しました。今年は、2画面の全く新しい形のスマートフォンを発表しました。そこで実力をつけて、日本の市場を狙うのが基本的な戦略です。

 ただ、スマートフォンが日本でこんなに普及するとは予想していませんでした。確かに、読み間違えていたと言わざるを得ません。日本では今年、秋冬モデルを投入します。遅れたわけですから、皆さんに「本当にいいな」と言ってもらえるものを出しますよ。

スマートフォンの登場で通信機器と情報機器と垣根がなくなりつつありますし、機器事業と「その他の事業」に分類しているICT関連事業との境もなくなってきていますね。どのようにシナジーを図っていくのですか。

 その他と言っても事業の規模は小さくはありませんし、そうしたトータルな提案は以前から行っています。電話の基地局では、通信部門がハードを造って設置し、補修やサービスをKCCS(京セラコミュニケーションシステム)が提供するといった形で、連携を進めています。いわゆるICT分野はスマートフォンの普及で、大きく事業領域が広がると思いますので、顧客にいろいろな提案をしていこうと考えています。

経営が必要な時に必要な情報を

経営から見たITの役割についてお聞かせください。やはりアメーバ経営のための道具といった位置づけでしょうか。

 その通りです。我々は随分早くからITを利用しています。まさにアメーバ経営を推進していたからです。創業間もないころは、アメーバ、つまり部署の損益を全部そろばんで計算していました。想像しても、大変さが分かるでしょう。ITを導入しなければ、どうしようもなかったわけです。

 ですが当時、社外の人にアメーバ経営を理解してもらえるわけもなく、ソフトを開発してくれる会社はありませんでした。自分たちで作るしかなく、経営管理部門が中心になってソフトを開発しました。1969年のことです。

 その後、三田工業(現・京セラミタ)など様々な企業を買収しましたが、そのときに我々の管理手法をいち早く導入するうえで、ITは大きな役割を果たしています。ですから他社に比べてIT活用は進んでいると思っています。

久芳 徹夫(くば・てつお)氏
写真:吉田 竜司

今、情報システムに課題はありますか。

 実は、情報システムはまだ進化の途中です。企業や事業を買収すると、今まで自分たちが常識と思っていたことが常識でないことがよくあります。事業が違うと顧客や売買の仕方が違いますから。物の流れも違いますし、契約の仕方も違います。それを全社統一の数字にまとめないといけない。

 ですからIT部門には、どんな事業にでも、すぐに使えるシステムにしてもらいたいのです。買収先のシステムをすぐに統合できるようにインタフェースを拡張することも必要です。買収した後から対応するのでは遅いですから。これまで独自で作ってきたものが標準だと思ってきたわけですが、今はその考え方を変えて、本当にグローバルで標準のシステムとは何かを考えてもらっています。

そうすると、IT部門はどうあるべきでしょうか。

 ITの一番の目的は何かを常に意識してもらいたいですね。目的とは、経営が本当に知りたい情報をいち早く経営に伝えることで、スピーディーに決断できるようにすることです。ところが、システム間のインタフェースの問題とかで、情報が来るのがまだ少し遅い。私はIT部門に、システムは未完成だと文句を言っています。実現は大変でしょうが、それが仕事です。

京セラ 代表取締役社長
久芳 徹夫(くば・てつお)氏
1979年3月に九州大学工学部卒業、1982年6月に京都セラミツク(現・京セラ)入社。2000年7月に自動車部品事業部長、02年8月にファインセラミック統括事業部長。03年6月に執行役員に就任。05年6月に執行役員常務ファインセラミック事業本部長 兼半導体部品事業本部長。07年4月に執行役員専務、08年6月に取締役 兼 執行役員専務。09年4月より代表取締役社長 兼 執行役員社長。1954年2月生まれの57歳。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)