震災直後の状況から、輻輳しない電話が必要だとの議論がある。実現できるのか。

 難しい課題だ。災害用伝言ダイヤルなどは、そのための仕組みの一つで、今回の震災ではよく使われた。これも過去の経験のたまものだろう。

 それでも電話がかかりにくくなる点が解消されるわけではないが、だからといって全部を解決するのはなかなか難しい。現実問題として、通常の10倍のトラフィックに備えた容量の設備を作るわけにはいかない。

例えばNTTドコモは、つながりにくい人のメッセージを自動的に録音して、メッセージがあることを通知するようにするとしている。

江部 努(えべ・つとむ)氏
写真:吉田 明弘

 それも一つの方法だ。要は、一つの手段だけで解決するのは無理だから、いろいろなアクセスライン、代替の入り口を作っておけばいい。

 我々が今考えているのは、IPネットワーク(インターネット)を使う方法だ。固定回線の先に無線LAN(Wi-Fi)のアンテナ(アクセスポイント)を付けて、スマートフォンとかタブレット端末から固定回線への入り口を作る。こうすれば、音声にもそれ以外の通信にも使える。

 インターネットの冗長性が生かされるから、ある程度輻輳にも強くなるし、ユーザーにとっては通信速度も第3世代(3G)携帯電話より速い。我々にとっては、点ではなく、ある程度の範囲を面的にカバーできる。例えば避難所のような場所での通信環境整備にはもってこいだ。

 もちろんスマートフォンやタブレット端末は、外で使いたいというニーズがある。だから屋外のWi-Fiのスポットも5万まで増やす。

ほかにも考えていることがあるか。

 入ってきた情報をどうしたらうまく共有できるかも考えなければいけない。例えば被災地では、避難所にいる人の氏名一覧を見てまわって家族を探す人たちがいた。そういうものを、歩き回らなくても検索できる仕組みができればいいだろうと思う。

 本当は、もっと進化させたい。災害用伝言ダイヤルなどはメッセージを入れたという情報は、そのままでは入れた人にしか分からない。だから、例えば「私は緊急時にこの人に連絡をしたい」という情報をあらかじめ預かっておく。それで、伝言ダイヤルにメッセージが入ったら、登録された人に自動的に通知する。そんなサービスができたらいいと思っている。

震災後、クラウドあるいはデータセンターの需要が急増しているようだ。

江部 努(えべ・つとむ)氏
写真:吉田 明弘

 震災の前から、その流れがあったことは間違いないし、今は関心が集中している。我々の場合も、引き合いの数は今までの2倍だ。

 こうしたニーズに合わせて、データセンターだけでなくアプリケーション込みのサービスも積極的に展開する。特に行政向けは考えていきたい。現に、今回被災したところから、かなり具体的な話が来ている。

 もう一つ考えたいと思っているのがデータセンターの分散。東北地方のほかに、北海道にもセンターがあればいいとか、少なくとも電力会社はまたぐよう場所を選んで分散させたほうがいいとか、そういうニーズがある。東京電力、東北電力、北海道電力、中部電力の4電力エリアをカバーして、サービスを提供していけるよう、今、仕込んでいるところだ。

NTT東日本 代表取締役社長
江部 努(えべ・つとむ)氏
1947年生まれ。神奈川県出身。1970年に一橋大学経済学部を卒業し、日本電信電話公社に入社。2002年にNTT西日本常務・経営企画部長、2003年同副社長・ブロードバンド推進本部長などを歴任。2007年6月にNTT持ち株会社の代表取締役副社長、中期経営戦略推進室長として2010年代のNTTグループの事業戦略を描いてきた。2008年6月、NTT東日本代表取締役社長に就任(現職)。

(聞き手は、河井 保博=日経コミュニケーション,取材日:2011年6月9日)