日本ユニシスの50年以上の歴史の中で、初の生え抜きの経営トップが誕生した。同社は3期連続の減収で、2011年3月期には3年前に比べ売上高の4分の1を失った。6月29日に社長に就任した黒川茂・前常務執行役員は、事業の建て直しを託された形だ。その黒川氏に、同社の現状の分析と反転攻勢へ向けた事業戦略を聞いた。

初めての生え抜きのトップとなるわけですが、まず抱負を聞かせてください。

黒川 茂氏
写真:陶山 勉

 日本ユニシスの50年以上の歴史で初めてのプロパー社長ですから、従業員の期待は相当高いと思います。実際、「自分たちが支えていかなければならない」と言ってくれる人が何人もいて、従業員の代表ととらえてくれているようです。パートナー企業や顧客からも期待してもらっており、しっかり応えていかなくてはと考えています。

 今後のユニシスをどうするのかについては、キーワードが二つあります。「技術」と「顧客のいる現場」です。ユニシスは創業以来、金融機関向けなどミッションクリティカルなシステムの構築・運用に携わり、高い技術力を持っています。その技術力をさらに発展させて、より良いビジネスに結び付けていこうと思っています。

 そして、顧客と共にというのが原点であり、大事にしたいと考えています。私も金融システムの経験が長く、入社以来、顧客のところに常駐したり、顧客と一緒にシステムを開発したりする経験を積んできました。ただ、最近は顧客が求めるものの質がどんどん変わってきています。

 以前なら顧客が要求する仕様のままに、品質が良く計画通りのコストで具現化したものが良いシステムだと言われていました。しかし最近は、我々のほうからの積極的な提案が期待されるようになりました。さらに、顧客が戦略的に投資している新規事業などの分野でも、我々が支援していかなければなりません。最近はスピード感も重要です。

 こうした顧客の期待に必ずしも付いていけていない部分があるので、我々のマインドを変えていく必要があります。従業員にも認識してもらわないといけません。

顧客の変化に対応できなかった

2008年3月期には、買収したネットマークスの売り上げも含め3380億円でしたが、2011年3月期には2530億円まで落ちています。3年間で4分の1の売り上げを失った計算ですが、これをどう分析、評価していますか。

 まずリーマン・ショックなど、この間の経済環境が大きな要因だと思います。ただ、顧客の意識がシステムをつくらず、できるだけあるものを利用する方向に変わってきているのも大きい。実際、メインフレーム関連や受託開発などのシステムサービス系が顕著に落ちています。特に受託開発は、市場が縮小傾向のなかで相当な過当競争になっていて、採算面でも厳しい状況です。

 我々もそれに代わる新たなビジネスとして、クラウドを3年前に立ち上げたのですが、利用料を継続的に得るストック型のビジネスですので、落ち込んだ分をすぐにはカバーできません。実は、もっと早くクラウドの利用が進むと想定していましたが、去年からようやく実績が出てきた段階です。

 もう一つの原因として、顧客の要求の質が変わっていることに対して、うまく対応できなかったことがあります。先ほど言った、顧客にとって戦略性の高い分野を顧客と一緒に実現することを、もっと早めに手掛けるべきでした。とはいえ最近は、ヤマダ電機のEC(電子商取引)サイト「YAMADAモール」のITアウトソーシングのように、顧客との共同事業的な試みも出てきています。こうした取り組みを加速したいと考えています。

震災があった関係で、今期も厳しい事業環境ですが。

 今期もほぼ前期並みで計画を立てていますが、現状では見えないところが多く、相当厳しいという認識です。震災後にいくつかの金融機関に直接聞いてみると、IT投資を抑えるつもりはないとのことでした。ただ、製造業などは厳しい。今まで計画未達が続き株主や投資家の信頼に応えられなかったこともあり、まずは計画通りを目指すのが今期の基本路線です。

日本ユニシス 代表取締役社長
黒川 茂(くろかわ・しげる)氏
1974年3月に東京教育大学理学部数学科卒業、同年4月に日本ユニバック(現日本ユニシス)入社。2003年4月に金融第一事業部システム統括部システム二部長。08年4月に執行役員 兼 SW&サービス本部長、09年3月に執行役員 兼 経営企画部長。10年4月に常務執行役員 兼 システム統括部門長 兼 USOLホールディングス代表取締役社長。 11年2月に金融事業部門長と金融企画部長も兼務。6月29日に代表取締役社長に就任。1951年9月生まれの59歳。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)