スマートフォンの普及にともない、画面のユーザーインタフェース(UI)に注目が集まっている。使いやすいUIをどう実現するかによって、そのアプリが使われるか、つまり自社の売上が決まってくるからだ。ユーザビリティについてのコンサルティングやUIの設計などを手がけているソシオメディアの川添歩シニアコンサルタントに、スマートフォンのUIの現状と、アプリケーションの企画および発注側となる企業が配慮すべきポイントについて聞いた。

(聞き手は高下 義弘=ITpro


スマートフォンの普及に伴い、アプリケーションが備えるUIの出来に注目が集まっているようです。

ソシオメディアの川添歩シニアコンサルタント
ソシオメディアの川添歩シニアコンサルタント

 UIの品質は、BtoC(消費者向け)のアプリケーションであれば、自社の売上を左右します。社員が使う業務用のモバイル・アプリケーションであれば、社員の生産性に直結します。こうしたことから、スマートフォン向けアプリのUIに注目が集まっているのは、当然ともいえるでしょう。

 業務用アプリについて言えば、社内でしか使わないとはいえUIに手を抜くことが許されなくなっている事情があります。社員も一人の消費者として日常的にUIに触れており、UIの質に対して敏感になっているからです。

スマートフォン用アプリのUIの品質を向上させる上で、アプリの発注者側はどのような点に気をつけるべきでしょうか。

 スマートフォン向けアプリのUIでは、PCのアプリケーション以上に、ビジネスや事業の観点からの優先順位づけが大切です。

 基本的に、スマートフォンのアプリについては、UIの要素、つまり機能を絞り込む方向で進んでいきます。理由は、スマートフォンはUIの条件がPCに比べて一般的に厳しいからです。画面が小さいため、必然的に盛り込める要素が限られてきます。

 また、タッチUIであることも十分に考慮する必要があります。マウスとキーボードで操作するPCとは、考え方を大きく変えなければいけません。例えば、画面に配置する要素について、指で操作できるように、ある程度大きくする必要があります。指で触れるときに画面の要素が隠れることを考慮する必要もあります。

 加えて、しばしば外で使うこともポイントです。落ち着いて操作する環境ではない自宅外のエリアなどで、必要な作業を短い間に完了させることが必要になりますので、なおさら機能をシンプルにしていく必要があります。

 何をどう絞り込んでいくかを考えるには、ユーザーを定義して、ビジネスの要件を明確にすることが大切です。要するに、ビジネスや事業の観点から何を達成したいのかを考える、ということです。

 すると、どんな機能が必須なのか、逆にどれが必須ではないのかが見えてきます。結果としてスマートフォンアプリのUIのあり方が決まってくるのです。

 洗練されたUIを作るには、事業の責任者、あるいはビジネスの責任者の決断が必要です。UIの設計時に、事業部の責任者や業務の責任者が最初からチームに加わっていると、とてもいいUIができあがります。ビジネスや業務の観点から、「スマートフォンで何を達成したいのか」というそもそものポイントから議論できるからです。

 しばしば見られる良くないケースは、アプリの要件や機能があらかじめ決まっていて、「あとはこれをスマホの画面に実装してほしい」というものです。UIの設計が“後工程”になっている格好ですね。これだと、できることには限りがあるため、洗練されたUIにするのは難しいのが正直なところです。機能を絞り込むという決断ができず、どうしても複雑で使いにくい画面になってしまいます。

Android端末はUIが設計しにくいという声がしばしば聞かれるようですが、この点についてはどう感じていますか。

 iOSと比較すると、そうであると言わざるを得ないでしょう。まず、Android OSでは戻るボタンやメニューボタンがあります。これらのボタンがあることを好むユーザーもいますが、ことUIをデザインするという観点からすれば、複雑性を高める原因となっています。

 また、端末によってたくさんの解像度のバリエーションがあることも難しくしています。違いを吸収する仕組みがあるとはいえ、それでもどの端末でも必ず見栄えが統一できるとは限りません。

 ただ、Android端末は市場で非常に伸びており、無視はできません。アプリを開発する側としては、何らかの形で対応していくしかないでしょう。