無線LANの認証、鍵交換といったセキュリティのプロセスを高速化する規格として、IEEE802.11aiの仕様策定が進んでいる。IEEE802.11のMAC層を拡張するもので、現行のIEEE802.11i(WPA2)よりも電波の占有時間を短くする。例えば、スマートフォンなどの無線LAN機器を持ち歩くユーザーが、公衆無線LANエリア通過時の一瞬の隙に通信して情報をやりとりする、といった利用シーンを想定する。同方式を提案し、IEEE802.11aiのタスクグループ議長を務めるアライドテレシスグループのルート代表取締役 真野 浩氏に、利用シーンや進捗などを聞いた。

(聞き手は大谷 晃司=ITpro

IEEE802.11aiのこれまでの経緯を教えてほしい。

IEEE802.11 TGai chairを務めるルート 代表取締役の真野 浩氏
IEEE802.11 TGai chairを務めるルート 代表取締役の真野 浩氏

 IEEE802.11ai(FILS:Fast Initial Link Setup)は僕が提案し、2010年3月にスタディグループ(SG)の設置が承認された。そしてSGの議長になった。SGは標準化するか/しないかを議論する場所で、「標準化するとこんなにいいことがある」「ほかの標準とはかぶっていない」などを明確にする。2010年12月に標準化作業を進めることが決まり、タスクグループ(TG)の設置が承認された。そして2011年1月の第1回会合からTGの議長をしている。そして2011年5月の段階でほぼユースケースはまとまった。

どのようなユースケースが提案されているのか。

 例えば、日本では東京メトロなどの駅に公衆無線LANが整備されており、駅にいるときだけでなく、駅に停車している間に車内で無線LANを使えたらできることが広がる。ここでは二つ問題があって、一つは単純に認証に時間がかかること。ESS-IDをスキャンしてアクセスポイント(AP)を見つけてつなぐ、ということは今でもソフトウエアでできるが、そもそものやりとりに時間がかかる。

 この時間がかかる点が、もう一つの問題であるスケーラビリティにかかわってくる。無線LANでは誰かが電波を出しているときは、こちらは電波を出さないというルールで成り立つ。実際に電波を占有している時間が結構長く、また駅でメールを読んでいる人など別のトラフィックも流れている。そこにかぶせては使えない。

 今の無線LANでは、端末が無線LANのエリアに入ってから出ていくまでの間に、実際に無線LANに接続できる端末数が制限されてしまう。例えばそのエリアが100mの範囲だとすると、エリアに入ってから出ていくまでの間に接続できるのは歩く速度でも10人はつながらないのではないか。こうした点がIEEE802.11で問題意識として認識された。こうした場合に10人ではなく100人は接続できるようにしたい、となると認証時間を短時間で、しかも電波の占有時間も短い方式が望まれる。

 米国ではコンビニやキオスクで使いたいといった要望や、無線LANを使った決済サービスで802.11aiを使いたいといった案が出ている。また、認証時間が大幅に短縮して、かつスケーラビリティも上がれば、野球のスタジアムなどでの電子チケットの“もぎり”にも使えるといった提案も出ている。交通系での利用も考えられている。安全・安心のためといた用途とは違うが、例えば車内のiPhoneが、公衆無線LANのエリアを通過したら自動的にメールを読んでくるとか、観光案内や道路情報を端末に送るといった利用シーンが考えられている。

 「パーソナルサイネージ」と呼ぶ用途も期待できる。一般のディジタルサイネージは不特定多数向けだが、802.11aiの認証技術を組み合わせることで場所と端末属性に応じた広告などを疑似プッシュするような仕組みが作れる。例えば、空港や駅などでユーザーは自分の予定に合わせた時刻表を受け取るといったことが可能になる。また、ある導線を歩いている人にクーポンなどを配って呼び込みに使うようなこともできるだろう。

 こうしたユースケースが5月にまとまった。その後、これらを実現するにはどういうファンクションが必要かをまとめ、現在は、どうやって評価するのかをまとめているところ。7月の会合では数社から技術提案が出てくる(会合は7月17日から。インタビューは7月14日に実施)。