「今、ベンダー各社がバラバラに提供しているPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)は2013年までに大きく変わっていく」。米ガートナーで、企業システムのインフラストラクチャについて研究するイェフィム・ナティス氏は、こう予測する。同氏の言う大きな変化の一つが、PaaSのスイート化である。PaaSのスイート化とはどのようなものか。同氏に聞いた。

(聞き手は、矢口 竜太郎=日経SYSTEMS



米ガートナー バイス プレジデント 兼 最上級アナリスト イェフィム・ナティス氏
米ガートナー バイス プレジデント 兼 最上級アナリスト イェフィム・ナティス氏
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PaaSが今後どうなっていくのか、予想を聞かせて欲しい。

 2013年までに、大きく二つの「PaaSスイート」に集約されていくだろう。PaaSスイートとは、ソフトウエアスイートのように、用途によって複数のPaaSを一つにまとめたものだ。大手ITベンダーが専業のPaaSベンダーを買収したり、足りないPaaSの機能を追加したりすることで実現する。複数のPaaSの機能がまとまることにより、企業にとって利便性が高まる。

 2011年の現在は、専門的な機能を持つPaaSが各社から提供されており、組み合わせて利用するためには検証の手間が必要だ。例えば、アプリケーションサーバーの機能については、セールスフォース・ドットコムやグーグルが、BPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)の機能についてはペガシステムがそれぞれ提供している、といった具合だ。

 今後、集約されていく二つのPaaSスイートとは、「aPaaS」と「iPaaS」である。aPaaSはアプリケーション・プラットフォーム・アズ・ア・サービスの略で、iPaaSはインテグレーション・プラットフォーム・アズ・ア・サービスの略である。

 aPaaSはユーザーのアプリケーションを動作させるためのPaaSだ。実行環境のほか、マルチテナントでユーザーを管理する機能やセキュリティの機能を持つ。

 もう一つのiPaaSは、アプリケーション連携を実現するためのPaaSだ。メッセージルーティングやデータ/プロトコル変換の機能、アプリケーション連携の順序を記述した「統合フロー」の開発環境などの機能を持つ。aPaaSがアプリケーションの実行環境であるのに対し、iPaaSは統合フローの実行環境である。

aPaaSがクラウド上のアプリケーションサーバーで、iPaaSがクラウド上のESB(エンタープライズ・サービス・バス)ということか。

 ほぼ、その認識で正しいが、厳密には異なる。単にアプリケーションサーバーやESBをクラウド上に配置しただけではなく、マルチテナントを管理する機能や、ユーザー自身が設定できるセルフサービスの機能、従量課金の仕組み、IaaS(インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス)に基づく弾力的なサービスインフラ上で動作する、といった特徴がある。

 また、aPaaSやiPaaSのすべてがパブリッククラウドで展開されるわけではない。例えば、iPaaSは三つの形式が考えられる。一つめはパブリッククラウドで実現する場合。自社運営のアプリケーションとパブリッククラウドのアプリケーションを、パブリッククラウド上のiPaaSで連携させる。コストは安くなるが、自社運営のアプリケーションをパブリッククラウドに直接連携させることに抵抗を感じる企業がいるかもしれない。

 二つめはプライベートクラウドで実現する場合だ。iPaaSの機能を持つソフトを自社運営のサーバーで動作させる。このiPaaSが自社運営のアプリケーションもパブリッククラウドのアプリケーションも連携させる。すべて自社運営のため、データを外部企業に預けたくない企業に向くがコストは高くなる。

 三つめは、ローカルエージェントと組み合わせる場合だ。パブリッククラウド上のiPaaSでアプリケーション連携を実行するのは一つめと同じだが、同時に自社運営型のローカルエージェントを置く。自社運営のアプリケーションは、ローカルエージェントを介してiPaaSとデータをやり取りする。コストは先に紹介した二つの形式の中間に当たる。

2013年より先はどうなる。

 二つのPaaSスイートが統合し、包括的なPaaSスイートが登場するだろう。2015年には、大手ITベンダーが企業買収をさらに繰り返すことによって実現しているだろう。

 そのころ、PaaSの採用企業は急増しているはずだ。アプリケーションを連携させる手段として、既存のESB製品を利用するよりも手軽に安価であるためだ。2016年までに、世界中の大企業、中堅企業の35%がiPaaSや包括的なPaaSスイートを利用していると考える。今は5%程度である。